第7話 癒し

「~ダンジョンが攻略されましたっ!」


学校に行くまでの間ラジオを聞いたり色々してるんだけどそんな報告が聞こえてきた。


「攻略者は桐崎さん!いや、すごいですね〜。桐崎さんはダンジョンが現れて直ぐに攻略を開始。そして、今も怒涛の~」


イヤホンを外した。

校門前に着いたからだ。


(今日も一日適当に頑張ろう)


そんなことを思いながら校門を通っていく。


ちなみにダンジョン関係の情報はまったく仕入れてないので情勢とかはぜんぜん知らない。


重い足取りで教室に入り机に突っ伏す。


そうしていると珍しい。

誰かの足音。


顔を上げるとそこに立っていたのは柔道部の金肉だった。


「おはよー、西条」

「おはよう」


俺は運動部というやつが嫌いだが、こいつだけはそうでもない。


割と誰にでも気さくなやつだからだ。


俺とは違って、ね。


「入院してたようだが、怪我は大丈夫か?」

「問題ないよ」


心配するのが数日遅い気がするが。答えておく。


んで、俺からも1つ質問。


「用はそれだけ?」

「いいや。今日は合同授業があるだろ?」


そう言われて思い出す。


技術科と攻略科は基本的に別れて授業が行われるが、今日からは合同授業と呼ばれるものを行うことになるということを。


「技術科の奴とはあんま喋らねぇからな。お前のこと予約したいんだが。何するのか分かんねぇがよろしくな」


合同授業ではペアを組む必要があるらしい。

わざわざそれのために指名をしに来たそうだ。


「まぁいいよ」


俺がそう答えると金肉はキラーんと歯を見せて帰って行った。


(ほんとに俺とは違う人種だ)


こうして授業が始まることになった。


んでやらされる事になったのが護身術の授業だった。


なんでも技術科の奴も将来はダンジョンに行くことになるかもしれない。

そうなった時最低限護身は出来ないといけないとの話だった。


(それで、護身か)


んで、俺の訓練相手はもちろん金肉だ。


「うっす。よろしくな」


そんな声を聞きながら俺は教えられた通りの構えをとる事にした。


「うっしゃ、行くぜ!西条!」


金肉が俺に向かって突進してくる。


「ごはっ」


俺はそのまま攻撃を受けて吹き飛ばされる事にした。


(ぷんぎゃぁあぁぁあああぁ!!!!!!)


俺の服の下ではスライムが防具代わりになってくれてるので痛くは無い。


ちなみにこれはスライムが進んでやっていることだ。


俺がやらせてるわけじゃない。


吹き飛ばされても強引に空中で体勢を建て直して着地する。


転がると服が汚れるからな。


「わ、わりぃわりぃ。もっと手加減しないとダメだったな」


そう言ってくる金肉に俺は頷いた。


「頼むよ?柔道部主将?」


金肉はその図体から一年にして柔道部最強と噂されている男だ。


手加減してもらうことにしよう。


その後も金肉と何度か護身術の稽古を行う。


で、そんな光景を見ていたら女子たちから声があがる。


「金肉くんやっぱすごいなー。西条くんをめっちゃぶっ飛ばしてる!」

「やっぱ体格がすごいよねー」

「でも西条くんもすごくない?」

「なんで?」

「さっきから一回も地面に倒れてないんだよ?」

「そういえばそうだね!」

「金肉くんが調整してるとか?」

「やっぱ金肉くんはすごいのね!」


そんな声が聞こえてきたが金肉は呟いた。

そのつぶやきは俺にしか聞こえない程度のものだった。


「違う、俺じゃない。俺は何もしていない」


そうして俺を見てきた。


「お前、ほんとに素人か?西条。ありえねぇよ」


その顔に焦りが見えてきた気がした。


(まずい。不自然過ぎたか?)


一瞬考えたが金肉はそのまま突っ込んできた。


「おもしれぇ、お前の体を寝かしてやらぁっ!」


そのまま突っ込んできて俺の手を掴む。


(やり方が違う?!)


焦り。

授業とは違う攻めた方をされたせいで脳が一瞬パニックになる。


くるっ!

そのまま金肉は体を回転させて俺の懐に。


これは。


背負い投げの構え。


(こいつの投げの力と俺の体重がかかればスライムがどうなるか分からない)


俺の中で瞬時に命の計算が出来上がる。


スライム>金肉。


そして俺は金肉に呟いた。


「悪いな。金肉。しっかり掴んでろよ俺の腕を」

「へっ?」


俺は自分に出来る最大限の跳躍を行った。

金肉を飛び越えるように。


グルンッ!

本来であれば俺が投げられるはずだったが、俺は金肉の体を自分の体ごと回して逆に金肉を地面に投げた。


「ごはっ!」


地面に叩きつけられる金肉。


シーン。

一瞬静寂に包まれたけど直ぐに女子たちが会話し始めた。


「見た?!今の!」

「金肉くんが投げるんじゃなかったの?!」

「どうなったの?!今の!」

「すごい!柔道ってあんなこともできるんだ!」


俺は地面に仰向けになっている金肉の顔を見た。


「ぜー、はー」


肩で息をして汗も大量に流している。


それで俺に言ってきた。


「お前なんで汗のひとつも出てないんだ?西条」

「……」


その言葉には答えることなく俺は離れていくことにした。


でもその瞬間に金肉にだけ聞こえる声量で呟いた。


「俺にはもう関わらない方がいい。これは忠告だ」


そう呟いたら後ろからガバッと起き上がる音。

振り向くと金肉が口を大きく開けて言った。


「かっけぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!!!!」


そのまま走って俺のとこに戻ってきてこう言った金肉。


「西条。お前柔道部にこねぇか?お前なら日本一になれる」

「行かないよ」


俺がそう言った時だった。


授業終了のチャイムが鳴った。


この授業はこれで終わりだ。


昼休みになってパンでも食べようかと思ったら声をかけられた。


「あ、あの。西条くん」


顔を上げたら立ってたのは竹本だった。


「なに?」

「すごいね。金肉くんを投げるなんて」

「火事場の馬鹿力ってやつだよ」


そう言いながら俺はパンの入った袋を手に取って言った。


「じゃあね」


そう言って俺は屋上に向かうことにした。


冬の屋上は寒くて登ってくるやつが居ないから絶好の避難場所である。


ベンチに座ると俺はスライムを服の中から解放した。


「ぷにゅ〜」


ヌルヌル動いてベンチに座るスライム。


パンをちぎってあげる。


「ぷにぃ」


もぐもぐ。


パンを食べていく姿を見ていたらあれだ。


(癒されるぅ)


人間の女の子を見ているより癒されるよなぁ。スライムは。


「ぷにぷに〜」


じゃっかん幼児退行しながらスライムをつっつく。


むにむにしてて気持ちいい。

そんなことに意識を奪われていた時だった。


トサッ。


屋上に繋がる扉の付近で何かを落とす音。

そちらに目を向けると


竹本が立ってた。


俺と同じく食事の入った袋を落としたようだった。


おそらくだが俺がスライムをつっついている姿を見て驚いたのだろう。


それより


(やばい。学校にモンスターを連れ込んでいるのがバレたぞ)


さて、どうしたものか。



【竹本視点】


驚きのあまり袋を落としてしまった。


でもそんなことがどうでもいいと思えるくらいの光景が目の前にあった。


(いつもクールな西条くんが!スライムつっついてる!)


私の中の西条くんのイメージは闇を抱えてそうな人ってイメージだったんだけど。


(こんな一面があったなんて!)


私がそう思いながら突っ立ってると西条くんが口を開いた。


「何も見なかったことにして帰ってくれないか?」


(恥ずかしがってる?!)


あのいつもクールな西条くんが?!


意外な一面を見てしまったかもしれない。

でもここで帰るのも損した気がする。


落とした袋を拾い直して聞いてみることにしよう。


「一緒にごはん食べていい?」

「俺からは何も話さないけどそれでいいなら」


とりあえず許可を貰えたことなので私は一緒にご飯を食べることにした。


スライムをつっついてるとこ見られて恥ずかしがってる(?)なんて!


西条くん、ちょーかわいい!!!!

癒されるっ!


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