第5話
新規のカリキュラムが導入されて2日後。
生徒も慣れてきたようだった。
俺も同じだ。
まさか日本に来て魔法道具作成を学ぶことになるとはな。
思ってもいなかったことだ。
ちなみに攻略科の方はダンジョン攻略のための実力をつけているらしい。
俺たちはというと相変わらず道具のことについての勉強だ。
ちなみにだが技術科にいるのは女子ばかりで、男子はほとんど攻略科に行ってるので俺みたいな男子は浮いてる。
休み時間になる度に女子達が俺たちを見ていた。
「西条くんってあんなんだっけ?入院してたらしいけど、入院前はあんなんじゃなかったよね?」
「なんか、雰囲気がギラついてるよね」
「クールって言葉が似合うよねー」
ってな風に俺が陰キャだと会話している女子たちの会話が聞こえてくるが無視して机に突っ伏す。
最近は常に眠い。
燃え尽きて、冬眠に入りたいようなそんな感覚だった。
調べてみたが燃え尽き症候群ってやつだと思う。
(何をするにもやる気が出ないな)
そう思っていたら足音が一つ。
「西条くん?」
顔を上げるとそこに立ってたのはさっき俺のことを話してた女子だった。
クラスでは目立たない女の子のたしか名前は竹本って子だったと思う。
早い話が俺と同類だ。
目立たないやつ。
でもかわいい(俺調べ)
「なに?」
「あ、いや、その」
話しかけたはいいけど言葉に詰まってるらしい。
「竹本さん。君は選択を間違えたよ」
「え?選択を間違えた?」
「俺にはもう話しかけない方がいいよ。俺のことは路傍に転がる石ころって思っててくれ」
「え?」
俺は動作で教室の時計を示した。
「授業始まるよ。俺とは違って真面目なんだし、5分前行動しといた方がいいんじゃない?」
「あ、はい」
なぜか丁寧な言葉になって竹本は戻っていた。
これで俺には関わらないで貰えるといいんだが。
それから先生が教室に入ってきた。
そしていつも通りに授業が始まると思ったが。
ダン!!!!!!!!
先生が教壇を叩いた。
ビクッ!
部屋の中にいた全員が驚いていたが先生は構わず続けた。
「この前のアイテムポーチ作成だがこの教室の中に1人だけ"すんばらしい"できの生徒が一人いたようだ」
「どうせ俺なんだろうな」
ボソッ。
呟いた。
すんばらしい(皮肉)できのアイテムポーチはおそらく俺が作ったアイテムだろう。
きっと冒険者たちの間では呪いのアイテムポーチとか言われていることだろう。
そんなふうにナイーブになってると石野が声を出した。
「先生、誰のアイテムポーチだったんですか?」
「それが分からないんだ。ほら。名前とか書いてもらってないからね。なんでもすごく使いやすいらしいよ」
こんなに皮肉を言われるくらい使いにくい道具らしい。
間違いなく俺のだろうな。
(異世界でも怒られたよなぁ。『お前の道具使いにくいんじゃ』って)
そうして今日の授業も進行していくことになった。
途中で先生が雑談を挟む。
「日本にダンジョンができてからまだ数日だが、冒険者の間では既に実力差が出ているそうだ。そして、いわゆるトップ冒険者って呼ばれてる人たちの間でこの学校で作られた例の道具が高値で取引されてるそうだよ!」
(まるで呪いのアイテムみたいだな)
自分のと思われる道具がそんな扱いをされてると中々悲しくなってくる。
朝っぱらからナイーブな気持ちになっていた俺だったが。
そんな俺にも放課後はやってくる。
いつものように誰よりも先に最速下校する俺。
俺の青春とやらはこんな感じでいい。
青春はバラ色だとか何色だとか言われているが、俺の青春なんて灰色だ。
いや、今はスライムがいるから青色かもしれない。
家に帰る前、俺は少し考えて近場のダンジョン前に来ていた。
「もう関わらないって決めたんだけどな」
気付けばここに来ていた。
目的があってきた訳ではないんだが、感傷的になりながらダンジョンを見ていたら
「あれ?先客?」
声をかけられた。
声のするほうを見たらそこにいたのは女の人だった。
(前にダンジョン攻略した時に会った人か)
まさかまた会うことになるとは思っていなかったが。
だが幸い向こうは俺には気付いていなかった。
「これからダンジョンに入るんですか?」
「いや。見に来ただけですよ」
そう答えて去ろうとしていると女の人は話をしてきた。
「あ、私は桐崎って言います」
彼女はそう言って俺を見てきた。
「ここで会ったのも何かの縁だと思います。お名前を聞いても?」
どうしようか。
ここで俺はお近付きになりたいとも思わない。
「名乗るほどの名前はないさ」
そう言ったら桐崎は俺を見て言った。
「うーん。この強キャラ感どこかで見たことがあるような?」
びくっ。
どうやら気付かないうちに強キャラムーブをしてしまっていたらしい。
いや、たしかにそうか。
んー。
悩んで俺は名乗ることにした。
「西条。ただの高校生ですよ」
そう言ってみると桐崎は思い出したように手を叩いて言った。
「あっ、そうだそうだ。今義務教育の中身が変わりましたよね?」
「変わりましたね」
「私たち探索者の中で有名になってる高校生がいるんですよ」
「へー」
桐崎はスマホを出してきた。
そして俺に画面を見せてきた。
「なんだただのアイテムポーチじゃないですか」
そこに映ってたのはおそらく俺が作ったアイテムポーチだ。
キョトンとした顔をする桐崎。
「すごいですね。これがアイテムポーチだってすぐに分かるの。まるで、見慣れてるみたいだぁ」
「そりゃわか……」
言葉を続けようとしたが続けていいのか迷った。
(俺にとっては異世界から見ていたものだから身近なものだが、この人たちにとってここ数日で出てきたものだもんなこれ)
だから直ぐにアイテムポーチって分かるのは確かに不自然だったかもしれないっ!
ここに来てそんなことを思っていると桐崎は言った。
「おやおや。おやおんや〜」
ニヤニヤしながら俺を見ていたが俺は言った。
「気にしないでくださいね。桐崎さん?たまたま分かっただけですから」
若干眉を引きつらせて俺は続けた。
「じゃ、自分はこれで帰りますんで。桐崎さんはダンジョン攻略しにきたんでしょ?」
はぁ、こんなところ来るべきじゃなかったな。
そう思いながら俺は帰ることにした。
のだが、
「今日はやめとこっかなー?面白いことありそうだし」
俺が一歩歩くと一歩ついてくる桐崎さん。
「まさかついてくるつもりですか?」
「え?だめですかー?」
ニヤニヤしながら聞いてくる。
それを見てため息ひとつ。
「お好きにどうぞ」
俺がそういった時スマホにメッセージが届いた。
ロック画面を確認してみると送り主は椎奈だった。
椎奈:お父さんたちは帰り遅いって。食事は各自済ませて、だって。私は出前頼んだ
って短く書かれてたから俺はファミレスに行くことにした。
ファミレスに入ると店員に声をかけられた。
「2名様ですか?」
「はい」
桐崎が答えた。
まぁ、特に害があるわけじゃないし。ここは一緒に食事をすることにしよう。
この人とは腐れ縁とやらがあるわけだろうし。
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