第4話 授業開始

トイレから戻ると授業は進んでた。

席に戻る途中で先生が話しかけてくる。


「おかえり西条くん。今魔法道具作成に入ってるんだ」


自分の席に戻ると俺の机の上には布切れが置いてあった。


(布切れ、紐。魔法道具作成か)


となるとアイテムポーチでも作るんだろうか?


異世界ではそうだったな。


席に座って先生を見てると先生は言った。


「アイテムポーチを作ってもらおうと思う」


(やっぱりな)


予想通りの展開だと思いながら俺はさっそくアイテムポーチ作成に取り掛かることにした。


異世界でも何度も作ってきた。


そうして俺はアイテムポーチを作りあげた。


出来上がったアイテムポーチを見ていると視界にウィンドウが表示された。



名前:アイテムポーチ

レベル:99



(まぁ、こんな低レア丸出しの素材で作ったにしてはまぁまぁのポーチだろう)


そんなことを思いながら俺は周りを見た。


周りの奴らはまだ作っている最中だった。


(随分と手の込んだものを作ろうとしているらしいな)


美術などと同じでこの手のものは基本的に時間をかければかけるほどいいものができる。


まぁ俺は美術も下手くそなんだが。


(寝るか)


やることも無いようなので俺は机に突っ伏すことにした。


それから何分経っただろうか。


「西条くん、なに寝てるんだ」


いつの間にか横に来ていた先生に起こされた。


「あぁ、できたんで寝ていただけですよ」

「できたからって寝るなよー。自習とかあるだろー?」


悪いが今の俺にそこまでの熱意は無い。


暇があれば寝たい感じの人間なんだが、とりあえず俺は出来上がったものを先生に見せてみることにした。


パチクリ。

目を何度か開閉する先生。


「ほんとにできあがってる」

「言ったでしょ?」

「う、うん。そうだけど。すごいよね。まだ他の子は誰もできてないのに」


そうだったんだな。


てっきり俺が寝ている間に出来たものだと思っていたが。


案外出来ていないらしい。


こんなに時間をかけて作ってるんだ。

さぞ素晴らしいものが出来上がることだろう。


もちろんこれは皮肉などではない。


そんなこんなで1時間目の授業は終わっていく。


授業終了間際になって先生が言った。


「今日作ってもらったアイテムポーチはさっそくこちらで点検してダンジョン攻略の役に立ててもらおうと思いまーす」


どうやら先生が言うには俺たち生徒が作ったようなアイテムすらダンジョン攻略の物資に回すらしい。


それほどまでに物資が惜しいらしい。


それにしても生徒の道具をそのまま使うなんてな。

異世界ではありえなかったことだ。



放課後。

俺は帰る前に屋上に向かうことにした。


この世界にどれだけの影響が出ているかを確認するためだ。


しかし予想外にもそこまで影響は出ていなかった。


「不幸中の幸いってやつかな。今のところは大丈夫そうだ」


そう呟いて入ってきた扉を出ようとした時だった。


「ぎゅぴ〜」


ん?


変な鳴き声が聞こえた気がする。


鳴き声の方を見るとそこにいたのは


「あー、ね」


スライムが倒れてた。


「なんでこんなところにいるのか分からないけど、怪我してんのかな」


スライムに近寄って体を観察。

思った通りだった。


怪我をしている。


「お前が弱いから治療してやる」


スライムは弱い。


俺が治療してやったという恩義を無視して裏切ったとしても大した痛手では無い。


「自分の弱さに感謝することだな」


俺はスライムに【ヒール】を使い回復させた。


するとスライムはぐにょ〜っと変形して俺の肩に飛び乗ってきた。


そして、媚びを売り始める。


「飼って欲しいのか?」

「ぎゅぴっ」


軽く苦笑しながら俺は答える。


「いいよ。飼ってやる。丁度ペットの一匹くらいは欲しいところだったからな」


異世界でもペットを飼っていた。


まぁ、最終戦に行く前で死んだんだけど、そう。


「ちょうど、こんな夕焼けの日だったな」


オレンジ色に染まる空。

倒れる仲間たち。


血に染る大地。


ペットも同じだった。


そして俺は負けた。


「いや、今は考えるのはやめておこう。それとスライム。お前俺の学生服の中に隠れてろ。見られたらお互い面倒だろう?」

「ぎゅぴっ!」


潜り込んできたスライム。

俺は屋上を後にすることにした。


そして、階段に繋がる扉に手をかけたようとしたところだった。

ガチャっ。

反対側から扉が開いた。


「あっ」


そこにいたのは石野さんだった。


そこで思い出したように口を開いた。


「あ、いや。屋上に行くのが見えたからさ」

「ふーん」


そう答えて俺は横を通り抜けようとしたのだがその時石野さんは聞いてきた。


「誰かと話してた?」

「誰とも話してない」

「見られたら面倒とかって聞こえたんだけど」


さきほどの言葉が聞こえていたらしい。


「気にしないでくれ」


俺がそう言った時だった。


「もしかして演劇の練習してた、とか?」

「ん?」


首を傾げた。


「演劇の練習?なんでそうなる?」

「見られたら面倒ってことは、禁断の恋をしている2人の設定、とかじゃないかなーって」


勘違いしているらしいが、まぁ、勘違いさせてていいか。


スライムと話してたとか独り言喋ってた、よりはましか。


だから話を合わせることにした。


「そう。今度身内で催しがあってね。それの練習」

「なーんだ」


納得したような顔をして石野さんは言った。


「私に言ってみてくれない?さっきの言葉。練習してみてよ」


頭の中はてなマークだらけだったけど、断ると面倒そうなのでやっておくことにした。


「いいのか?石野さん。こんなところ俺と二人でいられるの見られたらお互い面倒だろう?」


そう言って俺はその横を通っていくことにした。


それから後ろから変な声が聞こえた。


「死ぬっ!心臓止まっちゃいそう!!!」


どういう意味だ?


俺の声や態度が気持ち悪すぎて精神ダメージを負ったのだろうか?


まぁ元々俺はただの陰キャだ。

そんな俺にやらせたのが悪いんだよ石野さん。


家に帰った俺は部屋でスライムを放した。


「ぎゅぴっ」


部屋をノソノソ歩いてる。


(そういえば異世界のスライムはホコリとか虫とか食べてたけど、食料とかは同じなんだろうか?)


そう思った時だった。


バタバタバタバタ!


ドン!

扉が開いた。


「お兄ちゃん!ゴキブリ!」


ガビーン。


「えっ……?俺はいつからゴキブリになったんだ?教えてくれよ椎奈」


俺はいつからゴキブリになったんだろう?って軽くショック受けてたら椎奈は首を横にブンブン振った。


「そう、じゃなくて、ゴキブリ出たの。ふぇーん」


俺が頷いた時だった。


カサカサカサカサカサカサ。


「うひゃー!」


椎奈の足の隙間からゴキブリが俺の部屋に入ってきた。


「ぎゅぴん!」


ヌルッ!


スライムの体の一部が伸びてゴキブリをキャッチ。


バリバリバリバリ。


ゴキブリを取り込んで消化し始めた。


「ぎゅっぷ」


ゲップしてるスライム。


そのスライムを見て更に悲鳴をあげる椎奈。


「なにこの、むにむにー?!!!」


やばい。

秘密に連れ込んだから家族は誰も知らないんだが。


スライムが叩き出されるかもしれない、と思ったら椎奈は言った。


「ちょー、かわいい!」


むぎゅーっ。


スライムを抱きしめる椎奈だった。


おい、スライム。言いたいことがある。


そこを俺と変われ。


そう思っていたら椎奈は俺を見て。


むぎゅーっ。


「お兄ちゃんこんな可愛い子どこで見つけてきたの?私もほしー」


お前のことは許してやろう。

スライム。

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