第3話 変化

ダンジョンを消滅させて家に帰った俺を出迎えたのは椎奈だった。


「お兄ちゃんどこ行ってたの?まだまだ病み上がりなんだし無茶しないでほしい」

「心配かけた?ごめんね。でも、心配かけるのもこれで終わりだよ」


そう言いながら俺は家の中に入った。


すると椎奈はスマホを触りながら言った。


「お兄ちゃん、あの家の近くのダンジョン消えたみたいだね」


我が家の窓からも例のダンジョンについては見ることができた。

それを見ながら話す椎奈。


「すごいよねー。あのダンジョン消しちゃった人」


そう言いながら椎奈はスマホを見せてきた。

スマホには動画が映ってた。


ダンジョンが消えてから俺が喋り終わるまでの動画だった。


だが俺にはモザイクがかけられていた。


(こういう事もあるかと思ってネックウォーマーをつけてて良かったな。それからサングラス)


椎奈はそんな動画を見せながらつぶやいた。


「この人が消したっぽいよ。すごいよねーこの人。警察だってなにも出来てないのにー。顔見たかったなー」


そう言ってる椎奈に答える。


「顔見せなんてしたら初めてのダンジョン攻略者としてストーカーされるかもだしな、仕方ないんじゃないか」


俺は顔バレしたくなかった理由を口にした。


椎奈は納得していたようだった。


「そっかー。ざんねーん」


そう言うとスマホをしまって次の話題に入る。



「明日からだっけ?新規の義務教育」


この3日で色んなことが変わった。

まず、各学校に試験的にダンジョン攻略についての義務教育が追加されたことである。


これに関しては明日からさっそく導入される。

異例の速さだが、それだけダンジョンと呼ばれるものも異質だということだ。


「そうだな」


俺は本気は出さないけどね。


(俺は異世界で訓練を積んでる。そんなやつが本気を出せば一目置かれるってやつだろう)


俺としてはあまり望まない展開である。


俺は目立つのが好きでは無いからな。


(異世界で目立ったのを思い出すなぁ)


異世界では目立ってた。

俺は異世界召喚者として強かったからだ。


そして向けられたのは期待だった。

しかしその期待に応えるのは辛かった。


それに、期待に応えたところで報酬もなかったし。


なら初めから目立たない方がいい。

目立たなければ期待もされないのだから。


だから俺は目立たないことにする。


「ま、椎奈は頑張ってくれよ」

「お兄ちゃんも頑張るんだよ」


その言葉に俺は虚無的に笑った。


「俺は頑張らないよーん」


そんな会話をして今日という一日が終わっていく。


英雄でも勇者でもない。ただの脇役としての一日が終わっていく。



翌日。

学校に投稿してくるとさっそく新カリキュラムが導入されていて学校は一風変わっていた。


教室に入ると既にザワザワしていた。


多くの生徒が話し合っていたのはこれから始まる新カリキュラムの事について、だった。


(そりゃ、不安だよな)


そんなことを思いながら席に着くと俺の視界に影が落ちた。


(人か)


顔を上げるとそこに立っていたのは石野さんだった。


「どうしたの?友達がいない俺のことを心配してきてくれた、とか」


そう聞いてみると苦笑する石野さん。


「そんなに卑屈だったっけ?」


それから石野さんは聞いてきた。


「事故ったって聞いたけど問題ないの?」

「なんの問題もないよ」


そう言ってみると石野さんは言った。


「技術科にしたのはやっぱり事故のせい?」

「まぁ、そう。実はさ。後遺症が残ってね」


否定するのも面倒なのでそういうことにしておこうと思う。


「あ、ごめんね。いらないこと聞いちゃったみたいだね」


そう言って石野は早歩きで俺のところから離れていった。


俺はそのまま誰とも話すことなく授業の開始を待った。


さっそく新カリキュラムが始まった。

そして、先生は言った。


「技術科は残るように、攻略科は外へ」


その声で技術科と攻略科は別れることになった。


そして、先生は愚痴ってた。


「はぁ、嫌だなぁ。ダンジョンかぁ。ただでさえ時間が足りないってのに、変なのできちゃったよなぁ。今日も帰れないのかなぁ」


とか愚痴ってた。

もしかしたら先生は満足に帰れていないのかもしれない。


普通の人であれば罪悪感のようなものを持つのかもしれないが、俺の心は壊れておりそんなものは思わなかった。


それから先生は技術科の授業を始めて行った。

とは言え始まったばかりの授業であり、先生も四苦八苦しているっぽい。


その証拠に教科書をガン見しながら俺たちに説明していたからだ。


「えー、えーっと、ダンジョン内で使う武器は【コア】と呼ばれるものを埋め込むそうです」


そんな説明をしていた。


で、生徒からツッコミが入る。


「先生、コアってなんですか?」

「え、えーっと、その」


先生もあんまり詳しくないようで困っていた。


いきなりこんなことを授業でやれと言われても困るだろう。

同情くらいはする。


(助け舟を出してやるか)


俺はそう思って立ち上がった。


「さ、西条?」


慌てて聞いてきた先生には答えずに俺は教団の前まで言って小声で口を開いた。


「トイレに行きます。それと」

「それと?」


俺はポケットから異世界産の【コア】を取りだして、それを生徒からは見えない位置の床に転がした。


「なんか落ちてますよ?コアのサンプル品では?」

「え?ほ、ほんとだ」

「では自分はこれで」


俺はそう言ってトイレへ向かっていくことにした。


とは言え別にトイレに行きたかったわけではないけど。


だが言った手前は仕方ない。

教室へ出る間際先生の声が聞こえた。


「そう!そう!これがコア!みんな。見て!これがコア!ダンジョンから取れるんだって!」


ビカビカに光り輝いてるコアを生徒に見せつける先生。

それを見て生徒たちが口を開いていた。


「おぉ、あれがコアか。すげぇ光ってる」


そんな声が聞こえる中俺はトイレへ向かった。


で、しばらく時間を潰してから教室に戻ってきた。


先生から感謝の視線を少しだけ感じながら自分の席に戻る。


少々問題は起きていたが一日目の授業はなんとか終わっていく。


それにしても聞いていて思ったが。


(この世界の認識はまだまだ甘いよな。俺の知識の1/10も話していなかったな)


こんなことで大丈夫だろうか?と思うが、まぁ俺にはこの世界の行く末なんてどうでもいい事だった。


俺にとって大事なのは、椎奈の行く末だけだ。



【補足】

技術科はダンジョンで使うアイテムなどを専門的に学ぶ科です。

攻略科はダンジョンの攻略を専門的に学ぶ科です


まんまなのです









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