第2話 最後の
翌日。
俺は表面上は病み上がりということもあり昼からの登校となった。
いつもの道をいつもの歩調で歩く。
体調の問題なんかはない。
このままいつも通りの登校を続ければいい。
いつものコンビニを通り過ぎた。
そして、歩くこと数分。
学校に到着、なのだが。
「え?なんだあれ、ひょっとしてモンスター?」
俺は学校のある場所を見た。
そこに学校はあった。
しかし、だ。
「グルルルルルル……」
学校の校庭には見慣れない生物がいた。
犬のような四足歩行の生物。
「ウルフ、か?あれ」
この日本では見たことがないものだったが、異世界では見覚えがあった。
だからウルフということが分かったのだが。
「これが俺が異世界で負けた影響ってやつなのだろうか」
ウルフの強さは肌にしみて分かっている。
どうしようかと悩んでいた時だった。
「君」
声をかけられ振り向くとそこに立っていたのは警官だった。
「ここは危ないよ。帰りたまえ。見えるだろう?あのモンスターが。今特殊部隊を要請している。帰りたまえ」
そう言って警官は周りの住民に避難警告をしにいった。
ウルフに視線を戻して呟く。
「こんなものを放置してちゃ椎奈が危ないな」
街にクマがいるより危険な状況だ。
だから
「仕方ない。掃除してやろう」
決意して俺は校庭に目をやった。
さいわい生徒が襲われている、といったことはないようだ。
そして、俺にも気付いていない。
「ふぅ……」
ため息ひとつ。
気持ちを落ち着かせてから俺はネックウォーマーをグイッと引き上げて鼻から下を隠した。
これで仮に誰かに見られていたとしても一目で俺だとは気付かれないはずである。
準備を整えてから俺は校門に向かってジャンプした。
「体が軽いな」
異世界で鍛えた身体能力は健在だった。
1メートルほどの校門すらもあっさりと飛び越えて俺は校庭に侵入。
そして。
ダッシュ!
「ウィンドナイフ」
風属性魔法で作ったナイフを右手に取り俺はウルフを切り裂いた。
グシュッ!
「キャウーン!」
甲高い声で鳴いてその場に倒れるウルフ。
「討伐完了だ、な」
ウルフが死んだのを確認してから俺は校舎の方に向かっていくことにしたのだが、そのときだった。
校舎の方から声が聞こえる。
「きゃー!!!!あの人すごい!!!」
「ウルフを倒しちゃった!あの人!」
「あんなに強そうなモンスターを倒したよ!あの人!誰?!あのかっこいい人は!」
チラッと上を見ると窓からこちらを見ていた女子生徒が何人かいた。
(やれやれ。見られていたか。本来であれば目立ちたくはなかったのだが)
俺はいわゆるクラスの片隅で寝ているような人間だ。
だから目立ちたくはないんだが、すごく目立ってしまっているようだ。
そして、そのときだった。
(後方からモンスターの接近)
俺は振り返った。
そこにいたのは新たなウルフだった。
「グルルルルルル!!!!!」
タッタッタッ!
走ってくるウルフ。
俺はすれ違うようにウルフを再び倒した。
そうしたら再度上から甲高い声が聞こえた。
「あの子すごくかっこいい!」
「運動神経良すぎない?!」
「すてきーーー!!!」
そんな声が聞こえてくる。
(目立ちすぎだな)
そう思って俺は校舎の中へと入っていくことにした。
とりあえず現状を確認したいというのもある。
どうして、この世界にモンスターがいるのか、どこから発生しているのか、ってところだ。
軽く考えをまとめながら俺は自分の教室に向かった。
ガラッ。
教室の扉を開けて中に入るとそこでは異質な光景が広がっていた。
クラスメイトたちがバケツとかホウキを手に持って集まっている姿。
先生までもそれに加わってる。
そこで先生は俺を見た。
「西条くん?」
目をパチリとして俺を見てくる先生。
「はい、おはようございます」
「おはようございますじゃなくて、下のウルフはどうしたの?」
そう言われて思い出した。
そういえばウルフがいたな、なんてこと。
「頑張って見つからないようにきました」
「すごいね?!君?!」
驚いているようだった。
それから俺は女のクラス委員長の石野に目を向けた。
「石野さん?これはいったい何が起きてる?」
「それがね。モンスターが急に出てきたの」
そう言って石野は窓際に寄って遠くを指さした。
そこにあったのは見知らぬ建物。
東京タワーを紫にしたような建物だった。
「急にあんな建物ができて、そこからモンスターが出てきてるみたいなの」
(ダンジョンか、異世界でも見た事があるな。これが俺が負けた時の影響ってわけか)
そう思っていたら校内放送が聞こえてきた。
「あー、あー、校内放送です。校内と校外周辺の安全確認が出来ました。生徒の皆様は至急下校してください。それと安全が確保されるまで学校は休校としますっ!」
ブツっ!
校内放送は終わった。
今の放送で今日のところは解散することになった。
◇
日本にモンスターが出現してから3日間が経過した。
一日目の夜人々には【スキル】や【ステータス】と呼ばれるものが天から与えられた。
モンスターに対抗するための手段だった。
そして、それから3日間の間に分かったことがある。
現在の日本にはモンスターが現れ、そしてダンジョンが生まれるということだ。
そして、そのモンスターはダンジョンから出てきている、ということも分かり早急にダンジョンの消滅が求められるようになったこと。
だが、消滅方法は分かっていない。
しかしそれは一般的な話である。
俺は知っている。
ダンジョンの消滅方法とはダンジョンの攻略である。
ダンジョンの最奥にあるダンジョンボスと呼ばれるものを討伐することで消滅させることが出来る。
そして、消滅したダンジョンからはモンスターが出てこないということも。
~名も無きダンジョン~
俺は3日後の夜1人で紫色の東京タワーみたいなダンジョンにきていた。
そして、そのダンジョンの最奥にきていた。
「久しぶりだな、この感覚」
もうこんなところに来るつもりなんてなかったが。元々は俺が魔王に負けた責任というのもある。
最初のダンジョンくらいは攻略してやろうという気持ちが少しだけあった。
だから来た。
そして、目の前にいるボスに目を向けた。
名前:ミノタウロス
「ブモォォォォォォォォォォォォ!!!!!!」
叫び声を上げるミノタウロス。
しかし、それが
「最後の断末魔になるけど、いいのか?」
【ファイアフレイム】
圧倒的な火力を誇る火属性魔法を放ちミノタウロスを消し炭にした。
一瞬にして消えたミノタウロスを見て俺は呟いた。
「俺の仕事はこれで終わりだ。異世界で戦いすぎて疲れたよ俺は」
ダンジョンがどうやったら消えるのかを他の日本人に教えてから俺は隠居する。
だからこれが最初で最後のダンジョン攻略であって欲しい。
俺はそう願いながら光に包まれてるのだった。
ちなみにこの光は人間がテレポートする時に生じる光だ。
光が消えた時俺はダンジョンの外にいた。
そして、目の前には
「え?え?」
女の人がいた。
その人が聞いてくる。
「えと、えと……え?」
うろたえている女の子を見て俺は言った。
「俺は人間だ。そして、もう会うこともないだろう」
そう言ってネックウォーマーで口元を隠してから去り際に言った。
「ダンジョンはダンジョンボスと呼ばれる存在を倒すことで消すことが出来る」
軽く言い残して俺は立ち去っていった。
そのとき俺は背中側からこんな声を聞いた。
「あの人の強キャラ感すごい!」
そんな言葉を聞きながら思った。
無自覚でやっていたが、たしかにこれは強キャラムーブかもしれない。
だがこの強キャラムーブもこれで終わりだ。
あとは勝手に他の奴らが強くなってダンジョンを消滅させてくれることだろう。
そして、俺たちの暮らしの平穏を守ってくれることであろう。
日本人ってのは自己犠牲が好きなんだろう?
せいぜい俺たちの暮らしを守って欲しいものだ
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