第40話 セリカの決断
「今の私は……何なんでしょうか?」
空にかざすように手をあげたセリカはもの悲しそうな目でそう話す。
「何だって……勇者だろ?」
俺が答えるとセリカは首を左右に振る。
「たしかにこの聖剣を扱うことができる人間……ではありますけど、自分が思い描いてたものとは違う気がして」
「どんなのを思い描いていたんだよ?」
「……ゼスト様そのままです」
セリカの返答に俺は言葉がつまる。
俺そのままとはどういうことなんだよ……。
「ゼスト様は強くて、誰にでも慕われていました」
「過大評価しすぎじゃないか?」
仮に慕われてたとしても、何かあればみんなの態度は変わる……。
あの時、ブラバスを逃げ出した時のことを思い出すと、慕われてたなんて思えない。
考え込んでいるうちにしんしんと雪が気がつけば風が混じり吹雪いていた。
「っと……風もでてきたし、これ以上こんなところにいたら風邪ひいちまうぞ、中に入って寝ちまおうぜ、ぐっすり寝れば悩みなんかふっとんじまうぜ!」
彼女を元気づけるために声をかけると、セリカは微笑んでいた。
「そういうところですよ……やっぱりゼスト様は私の理想の勇者ですよ」
そう告げたセリカは屋敷へと戻っていった。
「……笑ってたってことは少しは元気になったのか?」
俺は首を傾げながら彼女の後を追って屋敷の中へと入っていった。
「ゼストーおきてー!」
声が聞こえてきたと思ったら、ボフッという音と同時に腹に突き刺さるような感覚を覚えた。
目を開けて自分の腹を目を向けると……
「……ナディアか」
ナディアが俺の布団の上で元気な笑顔を見せていた。
何が嬉しいのかわからないが、ピンと上に伸びた尻尾が勢いよくブンブンと動いている。
「朝だよ! すごいいい天気だから早起きしないと!」
ゆっくりと寝返りをして窓をみると、雲ひとつない天気に心地よさそうな陽射しが降り注いでいた。
たしかに彼女の言うとおり、外に出たら気持ちよさそうに思える。
「わかった、起きるからベッドから降りてくれ」
俺が起き上がるとナディアはベッドから降りた。
部屋を見渡すと、隣のベッドに大きな山ができていた。
たしか隣にはプリメーラが寝ていたはず……。
「……プリメーラはどうしたんだ?」
「ゼストと同じように起こそうとしたんだけど、布団を全身からかぶってエスカルゴみたいになっちゃった」
「……そうだろうな」
プリメーラは元々夜型ということもあってか、朝はものすごく弱い。
にもかかわらず、俺と同じような起こされ方をされればこうなるだろう。
そして、一番奥のベッドに目を向けると、そこには誰もいなかった。
使用した布団は片付けられているが……。
「ナディア、セリカはどうした?」
「私が一緒に起きたけど、すぐに外に行っちゃったよ?」
まだ怪我は完治していないはずなのに大丈夫なのか……?
「……ちょっと外に行ってくるか」
「それじゃ私もいく!」
外に出ると、部屋の窓から見た時以上に気持ちよく感じた。
日差しも充分にあるためか、若干寒いと感じるものの、震えるほどではなかった。
それは俺以外もそう思えるのか、外には集落のいくつものオーガ族の姿が見えていた。
「セリカはどこ行ったんだ?」
俺が呟いていると、近くにいたオーガ族の耳に入ったのか、俺たちの方へと振り向く。
「もしかして、黒髪の人間の女を探してるのか?」
「えぇ、どこかで見かけましたか?」
「朝早くに小さな森があるんだけど、薪用の木材の伐採に苦戦してたら、手伝ってくれたんだよ!」
男の話に俺とナディアは互いを見ていた。
「たしか、あの女はここを襲撃しようとしてた奴らだったから、警戒してたんだけどな! お礼に飯でも渡そうとしたんだが
受け取らずにそのままどこかにいっちまったよ」
話を聞く限り、不器用な感じはセリカらしいなと思えてしまう。
「ちなみにその森はどこに?」
オーガ族の男はあっちだと言って指を差していた。
「行ってみるか……ナディアはどうする?」
「ゼストがいくならもちろん行くよ!」
ナディアは嬉しそうに尻尾をブンブンと振り回していた。
集落から歩くこと数十分で、男が言っていた森へと到着した。
これだけ寒い場所にもかかわらず、太い木が何本も天高く伸びていた。
地面には葉が散らばっているので、他の時期に葉が多い茂っているのもしれない。
「セリカいないね……」
森の中を歩きながらナディアが呟いていた。
「ホントだな、怪我してるのに平気なのか……」
心配になりながらも俺たちは森の奥へと進んでいく。
すると、その途中で火が差し込んでいる空間があった。
元々そこには大きな木が生えていたと思える、大きな切り株が置かれ、その上には……
「あ、セリカ!」
日差しを浴びながら座っているセリカの姿があった。
ナディアは俺から離れ、彼女の元へと駆けていった。
「あ……」
俺たちに気づいたセリカは立ち上がり、こちらへと振り向いていた。
「いないと思ったらこんなところにいたのか、心配したぞ」
俺が声をかけると、セリカはこちらに向けて頭を下げていた。
「すみません、じっとしているのが苦手でして……それに集落の人たちに迷惑をかけたので罪滅ぼしに」
「みたいだな、俺らに話しかけたオーガ族が喜んでたぜ」
俺がそう伝えるとセリカは嬉しそうに微笑んでいた。
「雪原の先で野営していたブラバスの人たちに王都に戻るように伝えました」
セリカ曰く、自分のためにこんな寒い場所にいつまでも待たせるのは酷だろうと話していた。
「……ですので、私も明日、王都に戻ります」
セリカは何かを決断したような真剣な眼差しで俺を見ていた。
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【あとがき】
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