第28話 姿を現した強大な魔物とその元凶

 「魔物……!?」

 「岩でできたでかい魔物だ」


 魔物と聞いて、ライカンスロープの長が話していたことを思い出す。


 「「コンチネントエビル……」」


 俺とプリメーラはほぼ同時にその名を口にする。


 「……行こう」

 「あぁ……」


 俺とプリメーラは部屋からでると、駆け出していった。


 「おぉーい! 2人で納得しないで俺にも説明してくれよ!」


 その後ろでチェイサーが大声をあげていた。


 

 「つまり、ライカンスロープたちはそのなんとかエビルを外に出さないため、麓に住み出したのか」

 「そうだけど……」

 「うん? どうした?」

 「……何でおまえがここにいるんだ?」


 ウェルナー山脈へと繋がる街道を歩きながら俺は平然とした顔で隣を歩くチェイサーに声をかけた。

 

 「おいおい、俺たち一緒に魔王を倒した仲間だろ? つれないこと言うなよ」

 「いやいや、王子が普通に出歩くなよ、それにこれから戦おうとしてるのはとんでもなく強い魔物なんだぞ」

 「おう、もちろん知ってるぞ」

 「……おまえの身に何かあったらどうするんだ?」


 あの時みたいに怒られるじゃ済まされないと思って声をかけるがチェイサーはケロっとした表情だった。


 「王子だからこそ、国民に害が起きそうな時に何かしないとな、カーロラ王家は国民に守られるのではなく、守る存在だからな!」


 どうやらチェイサーが言ったのはカーロラ王国の教えのようだ。

 

 「だからこそ、あの時も魔王討伐に志願したわけ。 父上に断り無しにいったから後々大目玉喰らっちまったけどな」

 

 嬉しそうに話すチェイサー。


 「2人とも昔話に花を咲かせてるところ申し訳ないが、あれを見てくれ」


 俺とチェイサーはプリメーラが指差す場所を見る。

 ウェルナー山脈のてっぺんに大きな魔物が立ちはだかっていた。

 

 「……オブシディアンゴーレムだ」

 

 プリメーラが恐る恐る、魔物の名前を告げる。

 ゴーレム自体、岩に魔力を注ぎ込んでつくられた、いわば魔道具の一種だと言われている。

 

 「オブシディアンって……何百年も前、ウェインズ大陸にいた魔導士が作り出した特殊な石だな、膨大な魔力を溜め込むことができるって聞いたことがあるぜ」

 「その石ってどんな効果があるんだ?」

 「割ることができないって言われてるな」

 「マジかよ……」


 話しているうちに、魔物……オブシディアンゴーレムはこちらに気付いたのか、地面を小刻みに揺らしながらこちらへと近づいてきた。


 「……とりあえずやるしかない! 俺が先に斬り込むからプリメーラは後方援護を!」

 「わかった!」

 「って俺は!?」

 「チェイサーは俺と一緒に攻撃を仕掛けてくれ! 危ないとおもったらすぐに逃げろよ!」

 「おっしゃあ! 久々に勇者様とのコンビネーション攻撃をみせてやるぜ!」


 ……やったことあったか?と思いながらも俺とチェイサーは魔物の元へと駆けていった。


 「ほう、誰かとおもったらやかましい勇者と愚弟ではないか!」


 オブシディアンゴーレムに攻撃を仕掛けようとした瞬間、上空から声が聞こえてきた。

 

 「……その声はクレスタ兄さん!?」

 

 チェイサーの呼びかけに魔物の方に腰掛けていたクレスタに顔を向ける。

 謁見の間で見かけた時は顔つきが変わっているような気がする……まるで何かに取り憑かれたような悍ましい顔をしている。


 「まさか……兄さんがこの魔物を!?」

 

 チェイサーの叫びにクレスタは豪快に笑いながらこたえる。


 「あぁ、そうだとも! こんな素晴らしいものを復活させないとはあの獣どもは無能だな!!」

 「ライカンスロープ達に手をかけたのはおまえか……ッ!!!」


 俺はクレスタに向けて衝撃波を放つ。

 だが、クレスタが剣を構えた瞬間、衝撃波が周囲へと飛び散っていった。


 「何だあの禍々しい剣は……」


 俺たちの後ろでプリメーラが慄く。


 「ふはははは! 強大な力は使わなくては意味がないのだよ! これがあればカーロラ王国は私の意のままになるのだ!!!!」

 「……やっぱり兄さんが国家転覆を企んでいたのは本当だったようだな」


 そう口にするもチェイサーは実の兄がそんなことをするとは信じることができないようで、顔から悔しさが滲み出ていた。


 「さてと、あの邪魔な獣は消し去った、次に消すのは貴様だ! ブラバスの勇者!」


 クレスタが叫ぶとオブシディアンゴーレムが俺に向けて巨大な拳を振り落とす。

 なんとか避けることに成功するも、俺がいた場所には巨大な穴が空いていた。

 その場にいたら潰されていたかもしれなかった。


 「チェイサー! 同じ場所にとどまるなよ! あのでかい拳に押し潰されるぞ」

 「あいよ! こう見えても逃げ隠れするのは得意なんでね!」


 俺とチェイサーは素早く動き、魔物を翻弄しながら攻撃を仕掛けていく。

 当てることはできても、強靭な体に傷をつけることができなかった。


 「ふはははは!!! 無駄だ! おまえらのナマクラのような剣ではコイツを倒すことは不可能!」


 オブシディアンゴーレムの肩に座るクレスタが笑い飛ばす。


 「……だったら不可能を可能にしてやるさ」


 俺はクレスタにそう告げると、体全体に全力をこめていく。

 

 「ゼストの体に光が……!」

 「可能にするだと? ふん、バカは死ななければ治らないようだな! やれ、オブシディアンゴーレム!!」


 再びオブシディアンゴーレムが俺に向けて拳を振り落とそうとしていた。


 「いくぞ……! はぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」


 俺はラファーガを魔物に向けながらそのまま突き進んでいく。


 「くらえ……ライオネスチャージッ!!!!!」


 俺の周りに集まり出した光が剣の周りに纏い、振り落としてきた魔物の腕を粉砕していった。

 そして勢いが落ちることなく頭へ突き進んでいった。


 ——俺が突き進んだ後、オブシディアンゴーレムの頭と左腕は跡形もなく消え去っていた。


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【あとがき】

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