第27話 闇にのまれしもの

 「……終わったな」

 「……そうだな」


 ライカンスロープ族全員の亡骸を埋葬し終える。

 何においても終わった時は、爽快感があるが今回においては虚しさだけしかなかった……。


 もしかしたらあの時、俺たちが帰らなければ救えたのか……

 今更考えても仕方のないことを考えてしまう。

 もちろん俺が全てを救うことができるとは思わないが……。


 「ゼスト……」


 考え込んでいると、プリメーラが俺の名前を呼ぶ。


 「そう、自分を追い込むな」


 彼女の告げた言葉に俺は驚く。


 「……もしかして、声に出てたか?」

 「表情から何を考えているのかわかったよ」

 「そうか……」

 「とりあえず、私たちも一度戻ろう、ナディアも心配だしな」

 「そうだな……」

 

 カーロラ城下町までの帰り道、プリメーラは俺に声をかけていたが、どんな話をしていたのか全く覚えていない。

 ずっと考えていたのは、彼らを殺害した人物と何もできなかった自分に対する怒り。

 

 チェイサーの屋敷に戻ると、メイドから応接間に行くように言われたので、中に入ると、チェイサーの他にマーク王子の姿があった。


 「マーク王子、来ていらしたのですか……」


 俺が声をかけるが、少し疲れた顔を見せるマーク王子。


 「あぁ、チェイサーに話したことをゼスト殿にも話しておこうと思ってな」

 「話……ですか?」

 「クレスタの件でな……」


 マーク王子は深くため息をつく。


 「クレスタのやつはどうやら、国の転覆を企てようとしていたようだ」

 

 突然の話に俺は言葉が詰まる。


 「クレスタ兄さんの部下が話してくれたんだよ、兄さんからは他言無用と言われてたみたいだが」


 マーク王子の隣に座るチェイサーが補足してくれた。


 「クレスタ王子は国家転覆を企てるほどの力をもっているのか?」

 

 プリメーラの質問にチェイサーが首を左右に振る。


 「弟の俺が言うべきことではないが、クレスタ兄さんは超がつくほどの小心者で、そんなこと考えられないな」


 あまり人のことを悪く言わないチェイサーがそう言うとなると相当なものだろう。


 「だとしたら、クレスタ王子には協力者がいたと言うわけか……」

 

 プリメーラの言葉にマーク王子は頭を抱えてしまう。

 どうやら彼女が言っていることは事実のようだ。


 「その通りだ……あいつの部下が話してくれた」

 

 マーク王子はまたもや言葉を詰まらせる。

 だが、少ししてその重い口を開く。


 「どうやらその相手というのはブラバス王国の者らしいのだ……」


 故郷の名前が出て俺は思わずマーク王子の方へ身を乗り出してしまう。


 「誰なんですか……それは!」

 「残念ながら部下はそこまでは知らなかったようだ……クレスタも『あのお方』としか口にしてなかったようだ。 もしかしたらクレスタも名前を知らなかった可能性もありうる」


 「この件に関しては、先ほど父上に報告し……クレスタは国家転覆を企てたとして一番思い刑を下すと話しておられた」

 

 一番重い罪……死罪だろうな。

 その前に当の本人を見つけなければ意味がないのだが……。


 マーク王子とチェイサーの話が終わり、俺とプリメーラは部屋へと戻る。

 とりあえず疲れた体を休めておきたい……。

 部屋に戻ると、いつもとは見慣れない姿があった。


 「ナディア……?」


 ライカンスロープの少女が俺たちの部屋の奥で座っていた。

 俺が声をかけるとゆっくりこちらを向く。

 

 「おかえり……あの金髪の人がここにいれば2人が帰ってくるって言ってたから」


 金髪の人というのはチェイサーのことだろう。

 ナディアはゆっくりと立ち上がって、俺たちのいるところへやってくるが

 足がおぼつかなくなっており、フラフラしている。

 直前で倒れそうになり、彼女の体を抱き抱える。


 「無理するな、ベッドでゆっくり休んで構わないから」


 ナディアに声をかけるが、俺に抱きついたまま小さく体を震わせていた。


 「なんで……なんで……みんな殺されなきゃいけなかったの……!」


 嗚咽を漏らすナディア。

 昨日は勇敢に俺たちに戦いを挑んできたが、心はまだ幼い少女だ……。

 家族や仲間の死を受け入れることはできないようだ。


 彼女の問いに俺は何も答えることができず、ただ抱きしめてやることしかできなかった。


 「ナディア、少し寝た方がいいかもしれないな」


 後ろにいたプリメーラはナディアの頭に手を添えると、目を閉じて小さな声で呟くいく。

 するとナディアから心地良さそうな寝息が聞こえ始めた。


 「簡易的な眠りの魔法をかけた。寝れば少しは落ち着くだろう」


 プリメーラはそう話しながらナディアの髪を撫でていく。


 「そうだな……」

 

 ナディアの体を抱き抱えて、ベッドに運んでいく。


 「ゼストも疲れただろう、少し休んだ方がいいかもしれないな」

 「そういうプリメーラもだろ? 俺はソファで横になるから」


 そう告げて、ソファに座ると体を横に倒すとすぐに目を閉じる。


 「まったく……」


 プリメーラのため息が聞こえた。

 そのすぐ後に、柔らかい感触が頬から伝ってきた。

 滅多に感じない感触だったため、目を開けると視線の先にプリメーラの顔が映る。

 

 ふと、彼女と初めて会った時のことを思い出してしまう。

 

 「……そっちも疲れてるだろ?」

 「私は平気だし、こっちの方が落ち着くからな」


 どう見ても余計疲れると思うのだが……。

 心地よかったのか、段々と目が重くなってきていた。

 諦めてそのまま体の欲するままに寝ようと思った時、ドスンと大きな音がした。

 

 「な、なんだ!?」


 すぐに体を起こし、辺りを見渡していると、部屋のドアが勢いよく開き出した。

 その先には慌てた様子のチェイサーの姿が。


 「ウェルナー山脈に魔物が出たぞ……!」


 チェイサーは息を切らしながら大きな声でそう告げた。


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【あとがき】

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