第25話 ダークエルフと強大な魔物

 「ダークエルフって……」


 あまり聞きなれない言葉に俺はプリメーラの顔を見る。

 

 「……まさかこのような場所で気づく者がいるとは思わなかったな」


 珍しくため息をつくプリメーラ。


 「ゼストにはそろそろ話してもいいかと思っていたからな、良い機会か」

 

 プリメーラはいつもの通り、ふふっと微笑んでいた。


 「エルフの中でも色んな種類がいるんだが、有名な例を挙げるならハーフエルフか」

 「それは聞いたことあるな、たしか人間とエルフの間に産まれた子だっけか?」


 俺の返答にプリメーラは黙って頷く。


 「それと同じでダークエルフもエルフとある種族の混血時だ」

 「何だよ……ある種族って」

 「魔族だ」

 「な……っ!?」


 俺の反応にプリメーラは予想通りの反応だったのか、少し嬉しそうな表情を見せていた。


 「まあ、純粋のエルフからすればハーフエルフもダークエルフも忌避する存在だ、だから私のような旅のエルフがでてくるわけだがな」

 「もしかして……」

 「私もゼストと同じだ、産まれ育った場所から追放されているんだ」


 彼女のセリフに俺は言葉を失ってしまう。

 あの時、俺を旅に誘ったのは——

 

 「さて、話がだいぶ逸れたな……」


 話を終えたプリメーラはライカンスロープの長を見る。


 「聞かせてくれないか? なぜ、あなた達がこの地に住み始めた理由を」

 

 プリメーラの問いかけに長は口を閉ざしていたが、しばらくしてその重い口を開いた。


 「長く生きるお主なら知っているだろう、各地に眠る強大な魔物を」

 「コンチネントエビルのことか……」

 

 聞きなれない言葉が出てきて、会話に参加する隙が一切なかった。

 それを悟ったのか、プリメーラが説明を始めた。


 「コンチネントエビルというのは、ダツンよりも前に現れた大魔王と呼ばれる存在が大陸を支配するために作り出した魔物のことだ、その時の勇者が大陸に住む種族と協力して封印したそうなんだ」

 

 プリメーラの話にライカンスロープの長が頷く。


 「どうやら、カーロラ王国の王子が封印を解こうとしているようでな、先日もこの場にやってきおった」

 「……それじゃ、クレスタ王子がライカンスロープに襲撃されたというのは本当だったんですね」


 俺の言葉に長は深いため息をついていた。


 「むしろ襲撃をされたというのはこっちのセリフじゃがな……」

 「たしかに……」

 「むしろ我々は封印を解かれないように見張るために、この場所に移ってきたのだ」

 「なるほど……」


 納得できたのか、プリメーラは何度も頷いていた。


 「そうであれば、一度カーロラ王に報告したほうがいいかもしれないな」

 「だな、クレスタ王子のことも含めだな」


 俺とプリメーラは長に何度も礼を言ってから、集落を後にした。



 それから数時間して、カーロラ王国に戻ってきた俺たちはチェイサーの屋敷へと向かった。

 チェイサーに集落であったことを話すと……


 「クレスタ兄さんがそんなことをしていたなんてな。 父上とマーク兄さんにも報告しないとマズイな」


 そう呟いたチェイサーは屋敷を後にしていった。

 話の流れからカーロラ王の元に向かったのだろう。


 「とりあえず、チェイサー殿やマーク殿に任せて、我々は休むとしよう……朝早かったせいか眠くなってきた」


 プリメーラは大きく欠伸をすると、そのまま俺の肩にもたれかかった。

 そして数秒もしないうちに穏やかな寝息を立てていた。


 「早すぎだろ……どんだけ眠たかったんだよ」


 ため息をつきながら、俺はソファの背もたれに全体重をのせていた。


 「……何だろう、なんか変な胸騒ぎがするんだよな」


 


 その夜、カーロラ王国から離れたウェルナー山脈の麓で黒煙が上がっていた。


 「ふはははははは!!!!! どうしたどうした!!!」


 ライカンスロープ達の集落にて黒いオーラに包まれた男が縦横無尽に大きな剣を振り回していた。


 「あのお方にもらった剣の切れ味は素晴らしいぞ!!! 狼達がゴミのように倒れていくぞ!」


 叫ぶ男の足元には鮮血に埋もれるライカンスロープ達の骸が……。

 男の足は唯一の建物へと進んでいた。


 「ほう、貴様が長か……!」


 長は黙ったまま入ってきた男の姿を睨んでいた。


 「貴様を殺せば、邪魔者はいなくなる!!! 我が願いの成就のためここで死んでもらうぞ!!!」


 男は振り上げた大剣を長にめがけて振り落とそうとするが……!


 「ふざけるなぁぁぁぁぁ!!!!」


 長の後ろにいた少女が伸びた爪で大剣を受け止めていた。


 「ナディア……! ダメじゃ逃げるんじゃ!!!」


 長は男へと飛びかかったナディアに向けて声を上げる。


 「邪魔者は引っ込んでろ!!!!」


 男は大剣を大きくふり、抑えているナディアを振り払う。


 「が……はっ」


 投げ飛ばされたナディアは壁に叩きつけられ、グッタリと動かなくなってしまった。


 「ナディア……!」


 長は孫娘に近寄ろうとするが、男が前に立ちはだかる。


 「安心しろ、すぐにこいつの元へと送ってやる!!」


 そう告げるた男は大剣を長に向けて振り落とす。

 長は叫び声を上げる間もなく体を両断された。

 長だった骸はドサっと音を立てて倒れていった。


 「これで邪魔者はいなくなった!!!! ふははははは!!!!」


 血の匂いや腐臭が混ざり合ったこの地で、男は1人悦に浸り、狂気じみた笑いを繰り返していた。

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