第12話 地の奥底に眠るモノ
「そんなだっけ? 全然変わらないね〜」
「30年なんかあっという間だろう」
ドアの前でスケールが違う話をし始めるプリメーラと彼女が師匠と言う女ドワーフ。
「で、どうしたの?」
「ちょっと師匠にお願いしたいものがあってな」
「プリメーラさんのお願いなら何でも作っちゃうよ、こんなところで立ち話もなんだし中に……」
女ドワーフは俺と目が合うと流暢に話していた言葉がピタリと止まった。
そして、目を大きく開けると——
「ぷ、プリメーラさん!!! な、何で人間なんかと一緒にいるの!?」
俺とプリメーラを交互に見ながら騒ぐ女ドワーフ。
「あぁ、紹介がまだだったな、こちらはゼストと言って訳あって私と一緒に旅をしているんだ」
「そ、そんなことどうでもいいよ! い、今すぐ追い出さないと!!」
女ドワーフは近くにあった彼女の身よりも大きい大型ハンマーを手にすると、俺に向けて振り落とそうとしていた。
「安心しろ、彼はお前の両親を殺した人間とは違う!」
プリメーラが庇うように前に俺の前に立つと、女ドワーフのピタッと動きが止まる。
「……プリメーラさんがそう言うなら」
女ドワーフは俺の顔を睨みながらそう呟いていた。
「彼女はジネッタと言って、私の魔道具の師匠だ」
「なるほど……だから師匠って呼んでたのか」
中に(俺が中に入るのは嫌々と)案内されると、小さな応接間へと案内された。
テーブルの上にはコーヒーと水が置かれていた。
さっきの態度から見ての通り、コーヒーはプリメーラ用で水は俺の飲み物らしい。
出してくれるだけありがたいと思いながら少しずつ飲んでいく。
「師匠と言っても、魔道具のことは全然だよ、私は媒体となる形をつくるだけ」
ジネッタは照れた様子でプリメーラと話していく。
「そういえばさっき、お願いしたいものがあるって言ってたけど?」
「あぁ、ちょっと待ってくれ設計図を出すから」
プリメーラは指をパチンと鳴らしてストレージボックスを空間に表示させると中に手を入れて目当てのものを探していった。
「あったあったこれだ」
空間から出したのは薄っぺらの用紙だった。
「それって船で書いていたものか?」
俺が聞くとプリメーラは「そうだ」と答える。
これはクラーケンを倒した次の日、夜遅くまでずっと書いていたものだ。
受け取ったジネッタは黙々と見ていく。
「相変わらず細かい設計だね、でも面白そうな感じがしてきたよ!」
「いつも通り、元ができたら魔力を注ぎ込むから素材も魔力を吸収しやすいものでお願いしたいが平気か?」
「念の為、素材があるか確認してくるよ」
そう言ってジネッタは奥の部屋と入っていった。
「……すまんな、気を悪くしただろう?」
ジネッタの姿が見えなくなると、プリメーラは謝罪していた。
「別に構わないよ、ドワーフは人間を敵対していると聞いたこともあるしな」
人間とドワーフに亀裂が入ったのはもう何百年前のこと。
1人の人間がドワーフの集落に迷い込み、助けてもらったのが始まりだとか……
ドワーフたちはその当時の人間にはない技術を持っており、その人間が技術の発展のために色々と教わり自分の住む国に帰ったのはいいが、その国の王がその技術の独り占めを目論み、ドワーフたちを侵略していった。
「その時に多くのドワーフが死んでいったようだ」
それ以来、ドワーフは人間を敵として見るようになってしまった。
「師匠の両親も人間の手によって殺されたようだ、それも目の前でな」
「……なるほどな」
2人で話していると、奥の扉が開き、ジネッタが戻ってきた。
「材料が足りないから、鉱山に行ってこないと、すぐに戻るから家でのんびりしててよ」
ジネッタは壁にかけていたピッケルとローブを取り出すと家を出ていった。
「……大丈夫なのか?」
「鉱山は集落の中にあるし、他のドワーフたちもいるから問題ないだろう」
そう話すプリメーラだが、俺は何とも言えない胸騒ぎがしていた。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
「それにしても、単なる石ころを手にいれるだけで大量の金がもらえるなんていい仕事ですな!」
ゲンバラ大陸にあるゼストたちが入ったところとは違う洞窟にて人相の悪い2人組の男達が奥へと進んでいた。
小柄の男と、背中に大きな斧を背負った大男の2人組だ。
「ほんとだな! あれだけの金が入ったら当分、食料と女には困らねーぜ!」
大男が言ったことに賛同したのか小柄男も下品極まりない笑いをしていた。
そして洞窟の奥地で光り輝く水晶を発見すると、1人が意気揚々と水晶の元へと向かっていった。
「どうしますかい? いっそのことこの爆薬で吹き飛ばしますか!」
「バカヤロー、そんなことして洞窟が崩れたりしたらどうすんだ!」
「あ、たしかにそうですね!」
小柄男の顔を見て呆れた表情を浮かべるもう大男。
背中に背負った大きな斧を取り出す。
「こいつでぶった斬るからお前は下がってろ」
「わかりやしたー!」
小柄男が下がると大男は斧を大きく横凪ぐと、キーンと耳に突き刺さるような大きな音が洞窟内に響き渡っていた。
「マジかよ、真っ二つにできないのかよ!」
「よく見てみろ、わずかにヒビがはいっているだろう」
小柄男はゆっくりと斧の刃が刺さった箇所を見る。
水晶にわずかだが亀裂が入っていた。
「何度かやれば割れるだろ、それじゃもう一度——」
大男がもう一度斧を持ち上げて振りかぶろうとした瞬間、大地が大きく揺れ出していた。
「ちょ、地震!?」
「そんなにビビるんじゃねーよ、こんだけ活火山だらけなんだから地震が起こるのはあたりめーだろ」
揺れは激しくなっていき、天井からはボロボロと石が落ち始めていった。
「これはやべえな、一旦ここから出るぞ」
大男と小柄男はその場を後にしようとするが……
水晶の奥の壁が開き、何かが出てきた。
——その直後、その場にいた男2人の姿は最初から存在しなかったかのようになくなっていた。
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【あとがき】
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