第9話 ゼスト魔物から船乗りを救う
「うぉぉぉぉぉぉぉ!!!!」
俺は全速力で魔物の元へ向かっていた。
魔物が俺の存在に気付いたのか、ギョロッとした大きな目は俺を捉える。
そして船体に巻き付いている足を伸ばしてきた。
「そんなもの……ッ!」
伸ばしてきた足に向けて剣を上空へと薙ぐ。
その直後、甲板に切り落とされた魔物の足がズシンと大きな音を立てて落ちた。
魔物は自分の体の一部を切り取られたことで痛みを感じたのか、苦しそうに悶えながら海の中へと潜っていった。
「船長、大丈夫ですか!」
船首に立つ船長に声をかける。
魔物に負わされたのか腕から血が流れていた。
「誰かと思ったら、ボウズじゃねーか、見た目によらず腕っぷしがいいんだな!」
船長は俺の顔を見ると白い歯を見せていた。
「怪我をしてるじゃないですか、すぐに手当てをしないと……!」
「こんな傷どーってことはない! それに奴はまだ完全に倒れてはいない!」
船長がそう告げた刹那、船が再び大きく揺れ始めた。
「ボウズ! 海に落とされるんじゃないぞ!」
「ぐっ……!」
バランスを何とか保ちながら必死に踏ん張っていく。
「キシャアアアアアアアア!!!」
耳障りな音と一緒に大きな波音を立てながら船首の方へ顔を出す魔物。
口と思える箇所を膨らませると中から黒い物体を吐いてきた。
「はぁっ!!」
黒い物体を縦に斬り払う。
真横に落ちていくと、甲板の一部が黒く染まっていく
「あいかわらずでけぇイカ墨を撒き散らしやがって、やるならパスタの上に吐きやがれ!」
船長は威勢良く叫ぶ。
「船長さん、こいつの弱点は!?」
伸ばしてきた足を斬り落としながら叫ぶ
「いつもはこのぶってぇ足に大穴あけて逃げるのを待っているんだがな」
船長は自前のマスケット銃で魔物の足に大穴をあけていく。
「わかりました!」
俺は目についた足を両断していく。
魔物は苦しみから悍ましい雄叫びをあげていく。
「ゼスト! 後ろだ!!」
不意に聞こえた声の方へ向くと魔物の足が俺の体に巻き付こうとしていた。
「させるか……!」
その直後、足に白い矢がグサグサと音を立てて刺さっていく。
「プリメーラ……!」
船室の扉の前でプリメーラがデュアリスを構えていた。
「そいつの弱点は額にある石だ!」
俺は魔物へと目を向けると。
両目の少し上に小さな石が光っていた。
「それがわかれば……!」
剣を構えて船首に向かって走り出す。
魔物も弱点が狙われることに気付いたのか、先ほどの黒い塊を何度も吐き出してきたり
残った足で俺を叩き潰そうとしてきた。
その攻撃は船長のマスケット銃やプリメーラのデュアリスが捌いていった。
「これで終わりだぁぁぁぁぁ!!!」
弱点の石を目掛けてラファーガを突きつけた。
「ギィギャアアアアアアアア!!!!」
額にある石にヒビが入ると魔物は体を震え出した。
そして石が弾けるように割れると、ピタッと止まりギョロッとしていた目にも光がなくなっていくとそのまま海へと沈んでいった。
「何とかなったな……」
安堵の息をついていると、肩からバシンと今までに聞いたことのないいい音が耳に入ってきた。
それと同時に激痛も……。
「ボウズ! やるじゃねーか! あのバケモノをやっちまうなんてよ!」
船長が豪快に笑いながら俺の肩をバシバシと叩いていた。
「ちょっと船長さん痛いですから……!」
俺は必死に抵抗するが、止まることはなかった。
「今日の夜は勝利の宴を開くぞ! もちろん坊主もあの嬢ちゃんも一緒だぞ!」
そう言って船長は船室の中へと入っていった。
入れ替わるようにプリメーラが俺の元へとやってきた。
「どうしたんだ? もしかして傷でも?」
「……それの方がまだよかったかもしれない」
船長に叩かれたところが、熱を帯びたように熱くなっていた。
「それよか、船に乗っている人たちは!?」
「安心しろ、負傷者もいるが命に別状はない」
「よかった……」
胸を撫で下ろしていると、プリメーラは海を眺めていた。
「それにしても、こんなところにクラーケンが現れるとはな」
「クラーケン?」
「あぁ、さっきの魔物のことだ。かなり上位のランクに属しているが……まさか知らないで戦っていたのか?」
俺は無言で頷く。
その様子を見ていたプリメーラは呆れたと言わんばかりにため息をついていた。
「それでも、あの魔物を倒せるというのはさすが、魔王を倒した勇者だけのことはあるな」
「大袈裟だ、この剣が素晴らしいからだよ」
俺は彼女にラファーガを見せる。
「それなら、私『たち』がすごいってことにしておこうか」
プリメーラは不適に笑っていた。
しばらくして、船長が話していた勝利の宴が始まった。
あれだけの事が起きたにも関わらず、船長をはじめとする船員たちは俺やプリメーラを囲って大はしゃぎをしていた。
「今日の主役はボウズ、おまえだ! 遠慮せずにジャンジャン食え!飲め!」
言われるがままに食べて飲んでいるうちに、ふとプリメーラの姿がないことに気づく。
「もしかしてあのネーチャンですかい? それならさっきフラフラになりながら甲板にいきましたぜ!」
船員たちに勧められるがまま、酒を飲んでいたからとんでもないことになっているのかもしれない。
甲板にでると、予想通りプリメーラが座り込んでいた。
「……また飲み過ぎたのか?」
俺が声をかけると、プリメーラはとろんとした目で俺を見ていた。
無言のまま、自分の隣の床をトントンと叩く。
「……座れってことか」
言われるがままに彼女の横に座ると、肩に重みを感じていた。
目を向けるとプリメーラが俺の肩に寄りかかっていた。
「……眠いなら部屋に戻るぞ」
「海の上で星空を見ながらまったりするのもいいものだぞ」
その直後にムードというものを知らない奴だなとこぼしていた。
「悪かったな……」
ため息混じりに答えると、プリメーラはふふっと笑っていた。
「今まで何をするのも1人だったからな、誰かと一緒の場合どうなるのか興味があったんだ」
「……で、してみた感想は?」
「まったくゼストは呆れるぐらいムードというものを知らないのだな」
「……これまで生きてきて必要なかったからな」
自分で言って少し悲しくなってきた。
仕方ない、俺はずっと人を守ることを使命としてきたのだから。
「だったら今、知ってみたらどうだ?」
彼女の艶のある声に心臓が跳ね上がるような感覚になっていた。
顔を見ると、いつも見せる冷静かつ凛とした表情はそこにはなく、憂を帯びた普段とは違った表情だった。
そして、プリメーラはゆっくりと顔を近づけてくると……。
「き、気持ち悪い……」
すぐに口元を抑えると海のある方へと座り込んでいった。
その後のことを話すのはやめておこう……。
「ムードを知らないのはお互い様かもしれないな……」
俺はため息をつきながら、丸まったプリメーラの背中を何度も摩っていった。
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【あとがき】
お読みいただき誠にありがとうございます。
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これからもどうぞ、宜しくお願いいたします!
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