第2話 森の主と救出者と膝のぬくもりと

 「何だってこんな時に森の主がでてくるんだ……!」


 巨大な影が立つ方へ向かって走っていく。

 おそらくあの巨大な影はこの森の主であるビッグオークだ。

 普段は手下のゴブリンに餌の調達などをさせている、この森のボス的な存在で滅多に姿を見せることはないというのに……。


 ビッグオークは床に倒れ込んでいる小さな影へ持っている木製の棍棒を振り落とそうとしていた。

 小さな影は怯えているのか、座り込んだまま動こうとしなかった。


 俺は小さな影へと向けて飛び込み、影の主の体を掴むと同時に転がり込んでいく。

 その直後、ビッグオークの棍棒がズシンと音を立てて先ほどまでいた場所を叩きつけていた。

 

 「……間一髪だったな」


 俺は呟きながら、鼻息を荒くしているビッグオークを見上げる。


 「あなたは……」


 その横で、先ほど助けた人が声をかけてきた。

 そちらに視線を向けると、褐色肌の髪は光り輝くような銀色の髪型の女性だった。

 

 「……単なるおせっかいな男だ、それよりも早く逃げろ」


 女にそう告げると、俺は再度ビッグオークへと目を向ける。

 俺たちの存在に気づいたのか、ゆっくりと体をこちらを向け、ゆっくりと棍棒を振り上げていった。

 

 「それではあなたが……! それにそんな傷を負っていては……!」

 「こんな傷、日常茶飯事だ、いいから早く!」


 そうこうしているうちにビッグオークは棍棒を振り落としてきた。


 「ぐっ……」

 「ぐあっ!」

 

 狙いが外れ、俺たちがいるすぐ横に叩きつけられたが、衝撃で2人とも吹き飛ばされてしまう。

 俺はすぐに起き上がることができたが、女は動く気配がなかった。


 「くそ……」


 俺が生きていることに気づいたビックオークは俺の見下ろすように目前に立つと再び棍棒を振り上げていった。


 「ここまでか……」


 せめて武器があれば何とかなるのに……。

 半ば諦めかけていた時、俺の横で何かが光っていた。

 

 「……剣!?」


 俺の願いが叶ったかのように俺の横に無造作に黒い大剣が置かれていた。

 その剣を手に取り、ビッグオーク目掛けて大きく横薙ぐ。

 

 「グオオオオオオオオオオオ!!!!」


 ビッグオークは大きな雄叫びを上げながら、真後ろへと倒れていった。

 そこには上下に両断された体躯。

 

 「やったぞ……」


 勝利を確信したその時、目の前が真っ白になっていった。

 ——俺の命もここまでのようだな

 


 「よかった、気がついたようだな」


 パチパチと何かが弾ける音で俺は目を開けた。

 目の前には先ほどの褐色肌の女が映っていた。


 「よかった無事だったか……」

 

 俺は安堵の声をあげるながら、辺りを見渡す。

 目の前には怪しげなゴツゴツとした水晶玉のようなものが置かれ、その先にはパチパチと音を鳴らしながら燃えていく焚き火。

 

 視線の先には先ほどの女の顔が映っているが、その前には女のほどよい肉付きの胸元が映っていた。

 そういえば、頭部のほうからほどよい感触が伝わってくるのだがいったい……。


 「す、すまない……」


 状況を理解した俺はすぐに体を起こそうとするが、女はそれを止める。


 「気にしなくても大丈夫だ、むしろ助けてくれた恩人に膝枕しぐらいしか持て成すことしかできないのが申し訳なくてな」


 女はふふっと笑いながら話す。

 

 「それにしてもすごい傷を負っていたようだな……」


 彼女に言われ、俺は矢が刺さっていた部分に目を向けると刺さっていた部分には白い包帯が巻かれていた。


 「治療してくれたのか、ありがとう……」

 「お礼をいわれるほどでもないさ」


 その後すぐに女は刺さっていた矢は薪に使わせてもらったよと笑い混じりに話していた。


 「そういえばまだ名乗ってなかったな、私はプリメーラ、しがない旅のエルフさ」

 

 女は名乗ると同時に、耳にかかった銀色の髪をかきあげて自身の耳を見せる。

 長く尖った耳が目に入った。


 「エルフなんて本当にいたんだな」

 「大半のエルフは自分の里からでることはほとんどないからな、余程のことがない限り」


 そう話すプリメーラは少し寂しそうな表情を浮かべていた。


 「さてと、自分のことはここまでにしてだ、今度はあなたのことを聞かせてもらえないか?」


 プリメーラは純真無垢な子供のような顔をして俺の顔を見ていた。


 「俺はゼスト、さっきも言ったけど単なるおせっかいな男だ」


 苦笑混じりに答える。


 「ゼストか、いい名だな」

 「そりゃどうも……」

 

 滅多に言われることのないことを言われ、少し顔が熱くなっていく感覚になっていた。


 「そういえば、何年か前に魔王ダツンを打ち倒した勇者の名前もゼストだったような気がするが……」


 プリメーラは左手を口元に当てて考え込んでいた。


 「魔王ダツンか久々に聞いたな……」


 俺の呟きを聞いたプリメーラは大きく目を開けていた。


 「まさか、あなたが……?」

 「そうだよ」


 俺は苦笑混じりに答える。


 「俺はブラバスの勇者、ゼスト・インテグラ……今では国王を殺害した謀反者に成り下がっちまったけどな」

 「……どういうことなんだ? 何で勇者が国王を!?」

 

 俺の言葉を聞いたプリメーラは静かにそう口にしていた。


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【あとがき】

お読みいただき誠にありがとうございます。


カクヨムコンに参加いたしました!

受賞目指して頑張りますのでこれからどうぞ、宜しくお願いいたします!

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