マリ視点

 朝早くに目が覚めた。これは売られた時から…いや、売られる前からの癖だ。


「はぁ…」


 何度見ても、ここはとても綺麗で、わたしなんかがいてもいいのかと思ってしまう。でも魔王…ユーリ様がいていいと言ってくれた。しかも仕事までくれるらしい。

 でもやはり不安は拭えなくて。わたしなんかがこんな凄いところで働いてもいいのかな……。


 そんな不安を感じていると、扉が開き、可愛らしい顔つきの女の子が顔を覗かせた。こうやって見ると、ほんとこの方が魔王だとは信じられない……


「早起きだね」

「癖で…すいません」

「謝ることじゃないよ。いいことだもの。さて、じゃあ行こっか」

「……? いく、とは?」

「仕事場に、ほら行くよ」

「ま、待って、下さい!」


 ユーリ様に手を引かれ、部屋を後にする。というか力強っ!? 

 わたしは獣人だから一応力には自信があるのに、一切抵抗が出来なかった。


「と、ところで、どこに?」

「えっとね。騎獣舎」

「騎獣舎…?」

「そうそう。言ってたでしょ?生き物と触れ合うことが好きだって」

「い、言いました…でも、」

「でもじゃない。もう話は通してるから、いくよ」

「わっ」


 ユーリ様が魔王城の中を歩くけれど……壊しちゃわないかとか、汚さないかとか心配になって、全然見れなかった。

 



「ここだよ」

「こ、ここが…」


 ユーリ様に案内された騎獣舎は、見た感じ木造の建物だった。けれど、その規模はとても大きい。


「えっと……あ、おっちゃん!」

「……おぉ、ユーリ様」


 ユーリ様が誰かを探すかのようにキョロキョロと目線を向けて、騎獣舎の近くで屈んでいたおじいさんに話しかけた。


「言ってた子なんだけど」

「なるほど……事情は聞いています。ですが贔屓はしませぬぞ?」

「それでいいよ。そのほうが、この子にとってもいいだろうし。ただ、ちゃんと丁寧に教えてあげてね」

「無論です。では名前を教えてくれんか?」

「は、はいっ!マ、マリといい、ます。よ、よろしくお願い、します」


 いきなり話しかけられて驚いたけれど、ちゃんとぺこりと頭を下げる。


「マリか。じゃあまずは他の奴らが来る前に簡単な説明をしておくかのぉ。こっちじゃ」

「は、はいっ!」

「頑張ってねー」


 ユーリ様はそう言ってアニスさんに連れ去られて行った。

 ……ほんとにあのヒト魔王様なんだろうか。


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