騎獣舎

 次の日の朝。とりあえずマリに関する書類の処理は終わったので、一旦マリのところへ。


「おはよう、マリ」

「あ、おはよう…ございます、ユーリ様」


 部屋に入ると、マリはベットに腰掛けた状態で待っていた。


「早起きだね」

「癖で…すいません」

「謝ることじゃないよ。いいことだもの。さて、じゃあ行こっか」

「…? いく、とは?」

「仕事場に、ほら行くよ」

「ま、待って、下さい!」


 有無を言わさずマリの手を引いて拉…連れていく。


「ユーリ様。もうちょっと丁寧に連れてくることはできないのですか?」


 呆れ顔でアニスにそう言われた。でもまぁこっちのほうが早いし?


「と、ところで、どこに?」

「えっとね。騎獣舎」

「騎獣舎…?」

「そうそう。言ってたでしょ? 生き物と触れ合うことが好きだって」

「い、言いました…でも、」

「でもじゃない。もう話は通してるから、いくよ」

「わっ」


 わたしがこうも急いでるのには理由がある。それは……他のヒトに会わないためだ。

 もちろん騎士とか兵士とかはもう起きて動いてるんだけど、なまじ居住区が城にあるからね。他のヒトが働き出すのはもう少し後なんだ。だからそれまでに行く必要がある。転移しないのは、マリに魔王城を見てもらうためだ。


「見る余裕ありますかね…」


 ……大丈夫だ、多分。





「ここだよ」

「こ、ここが…」


 騎獣舎は魔王城の南側にある。ここで働いてるヒトの騎獣全ての世話をしているため、かなり広い。


「えっと……あ、おっちゃん!」

「……おぉ、ユーリ様」


 誰よりも早く世話をしていたおっちゃんは、ここの責任者だ。わたしもたまに来るから、このヒトだけはわたしのことを知っている。


「言ってた子なんだけど」

「なるほど……事情は聞いています。ですが贔屓はしませぬぞ?」


 ギラリと歳を感じさせない鋭い瞳がわたしを見る。こういう気概があるからわたしはおっちゃんを信頼している。


「それでいいよ。そのほうが、この子にとってもいいだろうし。ただ、ちゃんと丁寧に教えてあげてね」

「無論です。では名前を教えてくれんか?」

「は、はいっ!マ、マリといい、ます。よ、よろしくお願い、します」


 ぺこりと頭を下げる。


「マリか。じゃあまずは他の奴らが来る前に簡単な説明をしておくかのぉ。こっちじゃ」

「は、はいっ!」

「頑張ってねー」


 マリがおっちゃんと共に騎獣舎の奥へと姿を消す。よし、今日の仕事終わりっ!


「まだ終わってません!」

「えぇー…」

「マリも仕事頑張っているのですから、ユーリ様も頑張ってください」

「……そう言われたらやらざるを得ないじゃないか」


 はぁ…まぁ、ちゃんとやりましょうかね。







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