仕事を見付けよう

「とりあえず、今更で悪いけどあなたの名前教えてくれる?」

「あ、は、はい! ええっと…マリ、です」

「マリね」


 女の子…マリはどうやら家族に会いたいとか、そんな気持ちはないみたい。


「帰ったら…迷惑、なる…あ、なり、ます…から」


 小さいのにしっかりとしている。…悲しいほどにね。


「じゃあここで働いてみる?」

「え…ここって、魔王城です、よ、ね?」

「そうだよ。大丈夫、馬鹿にするやつなんて居ないだろうし、もし言う奴いたらぶっ飛ばすから」

「…ユーリ様が言うと本気でやりそうです」


 え、もちろんやるよ。こんな小さな子供を馬鹿にするなんて大人として、ヒトとして終わっているのだから。容赦なんて無い。


「マリは得意なこととか、ある?」

「あ、えぇっと……わたし、不器用だから…」


 マリがそう言って下を向く。それがコンプレックスみたいなものなのかもしれない。


「不器用でも、何か、少しだっていいんだ。上手に出来ること。もしくは、好きなことでもいい。無いかな?」

「好きなこと……生き物、と触れ合うこと、かな…あ、です」


 生き物と触れ合うか…それならがいいかもしれない。


「ユーリ様。わたしが提案したことではありますが、どうやって処理を…」

「推薦制度って、あったよね」

「…あぁ…なるほど」


 推薦制度っていうのは、ここ魔王城にて働いているヒトが、有能な人材をここで働けるように推薦できる制度のこと。中々目に付かない逸材って転がっているものだからさ。因みにわたしの前任の魔王が考えたらしい。


「しかしユーリ様が推薦するのですか…?」


 アニスがそう心配そうに言うのには理由がある。

 わたしの名で推薦した場合、それが原因でマリに嫌な思いをさせるかもしれないからだ。良くも悪くも魔王だからね。そんな魔王わたしが推薦したとなると、周りが過度な期待をマリに押し付けることになるかもしれないんだよね。それは流石にねぇ…。


「それなんだけど…アニスが推薦できない?」

「わたしですか?」


 だからわたしは、アニスに頼むことにした。元々アニスは侍女長だから、それなりに顔も利くしね。わたしより変な疑いとかもないだろう。


「……まぁ、いいでしょう。ではマリは、わたしの血の遠い親戚ということにしておきます」

「うん。後で書類持ってきて」


 わたしの仕事は書類を作ることじゃなくて、見ることだからね。わたしがそこまで手を出してしまえば、仕事を失うヒトが出てきちゃう。


「あ、あの…?」

「あ、ごめんごめん。マリそっちのけで話進めちゃったけど、なんとかなるから大丈夫だよ」

「い、いえ…その、わたし…は、ここで働く、のです、か?」

「うん。明日にでも説明するから」

「わたしなんかが…しても、いいの…ですか?」


 どうやらマリは、だいぶ自分に自信が無いようだね…。


「なんかなんて言わない。大丈夫、あなたなら出来るわ。ここで、ひとつでもいい。自分の出来ることを見つけてみなさい」

「……分かり、ました。やって、みます」


 よし。ちゃんと顔上げて返事もらえたし、またひと仕事頑張りますかね。


「……いつもその意欲があればいいんですけどね」

「……うるさい」




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