連れてきた

 とりあえず一番問題だったのはウィルフレッドだけだった。あとの子達は普通に家族の元へ返したよ。無論、誘拐されたことは言わないよう口止めしてね。

 ただ……やっぱりというか、みんな戦争という言葉に過剰に反応した。だから言わないで頼んだ時もしっかりと頷いたんだけど……それだけ、は深いか。


「……で。あなたはどうしようか」

「………」


 そう。実は1人だけ残っちゃったんだよね。獣人の女の子。この子はねぇ……実の親から売られたらしいんだ。だから帰る場所がない。

 口減らしとかで実の家族から売られるのはそう少ない話じゃない。でも現状この国で奴隷として認められているのは犯罪奴隷だけ。違法だからこのままって訳にはいかない。そもそもココ潰れるだろうし。となると…


「……ひとまず、うちくる?」


 少しの間がありつつも小さく頷いてくれたので、早速転移する。転移先はわたしの書斎。一番安全な場所だからね。

 

「お帰りなさいませ……おや、その子は?」


 すぐさまアニスが獣人の女の子の存在に気付いた。

 その当の本人は、キョロキョロと忙しなく視線をさまよわせている。まぁいきなり景色が変われば驚くよね。パニックにはなっていないのが幸いかな。

 でも、そんな様子からアニスがハッとした表情で口に手を当てて呟いた。


「まさか誘拐…」

「何故わたしがそんなことしなきゃならん!」

「冗談です」


 全く……ほんとにコイツはわたしを上司だと思ってるんだろうか。


「訳ありよ。お風呂に連れてってあげて」

「分かりました。では、こちらへ」


 アニスが未だキョロキョロしていた女の子の手を取り、お風呂へと連れていった。さてと……意見書書くか。流石に放置できないしね。


◆ ◆ ◆


「あの……」

「なんでしょうか?」


 ユーリ様から言われた通り身体を洗う為に獣人の女の子と手を繋いで進んでいると、おずおずと女の子が話し掛けてきました。

 怖がられないよう、足を止めて目線の高さを揃えて優しく問い返す。


「こ、ここはどこです…か?」


 ……ユーリ様、何も言わずに連れてきたんですね。誘拐って言葉ある意味合ってたのでは……


「ここは……城です」

「し、ろ?」

「はい。魔王城。正確には、東の魔王城と呼ばれています」

「東の、魔王城……どうして、こんな所に…」

「えっとですね……連れてきて下さった方、分かります?」

「は、はい。真っ白な髪の…綺麗な子」


 子。


「……どうした、です?」

「…いえ。少し」


 いけません。不覚にも笑ってしまいました。

 ……後で怒られそうです。


「その方が、この城の主だからですよ」

「………え?」


 驚くのも無理ないです。あの姿では、誰だって言われなければ分かりませんから……


「え、あるじって…つまり」

「はい、魔王様ですよ」

「……ええぇぇ!?」

「あ。着きましたね。では入りましょうか」

「えぁちょっと待って!待って、下さい!えぇ!?」


 未だ理解が追いつかない女の子をお風呂の担当へと引き継ぐ。ちゃんと話しますから今は入ってください。後で一緒にユーリ様を締めましょうね。




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