魔王とは

 アニスから獣人の女の子が心底驚いていたという話を聞いて…うん。ちゃんと話してから連れてきたほうが良かったかなぁと少し反省する。


「当然です」

「いやでもさぁ。話したら来なかったかも知れないでしょ?」


 もしわたしが魔王で…いやまぁ信じなかっただろうけど、今からお城に転移するよ! って言って萎縮しないヒト居ないと思うのよ。

 でもそうなるとあの子は完全にを失ってしまう。文字通りね。


「それはまぁ否定できませんが…」

「でしょう?」

「……(拒んでも無理やり連れて来そうです)」


 ……否定はしない。小さな子を見殺しなんてできないからね。


「で。あの子は?」

「今はお風呂で体を綺麗にしたので、食事を」

「ふーん」

「……行っちゃだめですよ?今は」

「緊張させちゃうか」

「はい」


 うーん…それなら無理には行かない方がいいよね。満足な食事も貰えなかっただろうし、緊張して喉を通らないとかになったら嫌だもん。

 魔王っていうのは強者だから、否応無しに相手に怯えられてしまう宿命を背負ってる。まぁ言い換えれば畏怖の対象。…後で怖がれないか心配だわぁ…



「誘拐犯は、どうしたのですか?」

「あぁ、あれね。国に意見書書いたから、一斉摘発でもされてるよ」

「何故今まで動かなかったのか……」


 それは本当に思うよ。地図から消えなくてよかったね。


「…この犯人を見つけたのがユーリ様で本当に良かったです。もしが見つけていたら…」

「確実に戦争だったろうねー」


 魔王という存在。実はわたしだけじゃない。わたしは東の魔王。これを聞いて分かるとは思うけど、それぞれの方角に1人ずつ魔王がいる。だからわたしを除いてあと3人、他に魔王がいるんだ。

 そしてアニスの言葉。わたしって魔王の中で比較的温厚なほうなんだよ。だから他の魔王が今回の事を見つけていたら、確実に戦争になっただろうね。

 軽く言うけど、そんな態度でないとやってらんないよ。ほんとヤダ。


「……ん?」


 ふとわたしは亜空間収納から魔導石版タブレットを取り出す。するとそれが震え始めた。これは通信が来ているという合図だ。誰から…あぁ。


「…もしもし」

『あ、繋がった…ほんとお前に繋がんねぇな』


 いや。繋がってはいるんだよ。ただわたしが気付かないと言うだけで……収納の中って分かりにくいんだもの。一応気付けるけど、物凄く遠くにある感じ。でもだからと言って常に持っとくには案外デカくて重いんだよね……


「…ユーリ様には、ですけど」

「…うるさい」


 どうせ体格が小さいからね!


『どうした?』

「…なんでもない。それよりどうしたの」

『ああ。説明にお前の名前、使わせて貰ったって報告だな』

「別にいいのに」

『そういう訳にもいかんだろ。でも助かった。絶大だったぞ、説得力』

「……あんまり嬉しくは無いなぁ」


 思わず力無い笑みを浮かべてしまう。

 いくらわたしが有名だったからってねぇ…


『まぁそう言うな。…を助けてくれたこと、心から感謝する』

「いいよ別に。たまたまだから」

『…分かった。で、ちょっと話できねぇか?』

「えっと…どう?」

「……まぁ、ユーリ様が後で頑張れば、どうとでもなります」


 うぅ…やだよぉ…でも久しぶりに会いたいしなぁ……


「…行こう」

『じゃあいつものとこでいいか?』

「うん」

『じゃあ後でな』


 そこで通信が切れた。はぁぁ……帰ったら頑張ろ。


「という訳であの子のこともよろしく」

「はい。帰ったら覚悟しといてくださいね?」


 いい笑顔でアニスがそう言い放つ。


「………」


 わたしは無言で転移した。

 ……帰りたくないなぁ。





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