華を咲かせよう

 とりあえず誘拐犯と子供たちはアニスと兵士に任せ、わたしは残りの子供たちの場所を探す。


「…誘拐事件が発覚したのはつい最近。つまり、まだ遠くには行っていないはず」


 男たちのので、それは間違いない。だとすれば、今は馬車で運んでいるはずだ。

 

「アニスー」

『…はい。どうなさいました?』


 魔導石版タブレットを取り出してアニスに繋ぐ。忙しいかと思ったけれど、直ぐに反応があった。


「他の国に入るかも知んないけど、いい?」

『…それわたしの許可なくても行きますよね?』

「当然」


 子供は宝だ。自国の子供一人助けられず、なにが魔王だ。だから許可が出なくても行かなくてはならない。それがわたしの責任であり、仕事だから。

 つまりこの会話は、ただ単なる報告に過ぎない。


『…普段もその自覚があればいいのに』

「なんか言った?」

『いえ。こちらは大丈夫ですので、ご自由に』

「りょーかい」


 魔導石版タブレットを亜空間収納にしまい、子供たちが乗せられているであろう馬車を急いで探す。

 この国から、誘拐犯の男たちが住んでいる国までは1本の道しかない。バレたら不味い、というか普通に犯罪を犯しているので、普通はそんな道を通らないだろうが……道をそれれば待ち受けるのは、死のみ。

 なぜなら道には魔物避けが施されているからである。だから逸れればすぐに魔物に襲われる。

 ……それを知っていればいいけど。最近の人間は魔物という驚異に晒される事が少なくなっているからか、警戒感が落ちているとアニスから愚痴を聞いた覚えがある。

 わたしは嫌な予感がしたので、急いで魔法で空を飛び、向かうことにした。
















「………いた」


 しばらく空を飛ぶと、男の記憶と一致する馬車を発見した。けど……


「……馬鹿か、本当にアイツらは」


 最悪な事に、わたしの嫌な予感が当たってしまったようだ。アイツらは思いっきり道を逸れて進んでいた。それもろくな護衛も付けずに。

 それで案の定魔物に襲われているのだから、自業自得だ。とはいえ、子供たちをそれに巻き込むことはしたくない。

 わたしはその場所へと急降下しつつ、魔法を構築する。


「"咲き誇れ。氷結の華よ"」


 その瞬間、馬車を中心に囲むようにして、巨大な氷の華が出現する。見るものを魅了するほど美しい、氷の華…だが、美しい華ほど、棘ある。強烈な棘が。


「うわぁぁぁ!!?」


 馬鹿なヤツが一人犠牲になった。

 これは強力な冷気を纏う華だ。少しでも触れれば、そこから一気に凍り付く。

 そして凍りついた後は……砕け散る。跡形もなく。我ながらかなり惨い魔法だとは思うよ……。


「グルル…」


 男が凍り付くのを目撃したからなのか、先程まで馬車を襲っていた魔物──フォレストウルフ達がグルグルと警戒するように華の周りを回る。

 ……でもね。その華が動かないなんて、誰が言った?


「"穿て。氷結の茨よ"」


 次の瞬間、華の根元から氷の茨が飛び出し、フォレストウルフ達を串刺しにする。貫かれたフォレストウルフ達は、一瞬にして凍り、砕け散った。一網打尽、と。

 男どもは…残ってないか。凍ったので最後だったのか。ギリギリだったなぁ…


「大丈夫?」


 地に降り立って馬車の中を覗き込む。中には魔封じの首輪をした、怯えた子供たちが7人。うん、男の記憶通りだ。


「もう、平気だよ」


 とりあえずアニスに連絡を取る。そこまで国から離れていなかったので、すぐに駆けつけてきた。


「…また酷くやりましたね」


 周りの惨状を見て、アニスが呟く。

 馬車を囲う巨大な氷の華。そして辺りに散らばる魔物の血肉が氷漬けになったもの。うん、酷いね。


「仕方ないでしょ。護りつつ戦うにはこれが1番なんだもの」


 触れたら凍るし、茨で攻撃もできる。まさに簡易型の要塞だよね。









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