「ねぇ、暇だから手合わせしない?」

「……わたしでよろしければ」


 訓練場に来たはいいけれど暇になったので、手頃な兵士を捕まえる。いやまぁ手頃なって言っても隊長なんだけど。

 第三兵士団隊長、へカーティア。わたしはティアって呼んでる。綺麗な金髪を後ろで一つ括りにした美人さん。

 あ、ちなみに騎士団は全部で3つ。兵士団は全部で10。合計13の部隊が存在する。兵士は多いからねぇ。

 そんな中でもへカーティアは唯一の女性隊長。だからちょっとわたしが気にかけている相手でもある。流石に贔屓はしないけどね。



 訓練場から少し離れたところにある、屋内訓練場へと向かう。ここなら誰かに見られることはほぼない。流石に手合わせ見せちゃったら、わたしが魔王だって新人達にバレちゃうからね。こういうのは少しづつバラしていくのが面白いんだから。


「ではユーリ様。お願いします」

「ええ。よろしく」


 ティアが一つ礼をしてロングソードを正面に構える。対するわたしは短剣だ。

 ……だってこの体でロングソードは取り回しにくいからさ。一応持てはするよ? 振り回されるけど。


「いきます」


 一気にティアが突っ込んでくる。そして横薙ぎに全力でロングソードを振るってきた。

 訓練用の為無論刃は潰してあるが、当たれば痛い。てか骨折れる。

 

「なかなか腕上げたね」


 わたしはそのティアの全力の振りを、片手に持った短剣で受け止める。受け流したり躱したりすることは出来るけれど、それだと純粋な込めた力の強さが分からないから、敢えて受け止めた。

 力もしっかりと入ってるし、剣筋も正確で速い。新人だったら受け止めることはおろか、反応することすらできないだろうね。


「……これを片手ですか」


 ティアが乾いた笑みを浮かべて力を緩める。まぁ、普通はそういう反応になる。正しく化物だもの。自分でもそう思う。


「でも強くなってるよ。偉いね」

「…いつか、貴方様に勝ってみせます」

「お、いいね。その意気だよ」


 むしろ勝ってちょうだいな。はやく魔王辞めたい。


「…わざと負けないで下さいね?」

「分かってるよ」


 わざと負けるなど、戦いを生業とする兵士や騎士を侮辱していると同義だ。だからわたしは、わざと負ける訳にはいかない。

 ……負けたいけど、こればっかりは仕方ない。


 ティアがわたしから少し離れて剣を収め、口を開く。


「ユーリ様は、どのように強くなったのですか?」


 ……純粋な疑問なんだろう。それは分かっている。けれど、この質問には答えにくい。だって……気付いたら強くなってたんだから。努力もやり方も、あったもんじゃない

 だから、でも、そうだなぁ……敢えて言うなら──


「─実戦あるのみ」


 ですよ、まじで。

 ……わたしの実戦は、ちょっと嫌な記憶だけどね。思い出したくは無いけれど、忘れる訳にもいかない。それがわたしのだから。


「……はい。もっと精進します!」


 いい笑顔でティアが去っていった。さてと。

 ……そろそろ戻らないとアニスに怒られるな。もーどろっと。




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