有望な人材みーっけ

「あなたも仕事あるでしょう?わたしは勝手に回るから、気にしないで」

「……おそらく、どうしても気にしないといけなくなる予感しかしません」


 おい。どういう意味だそれ。

 わたしが思わず睨むと、隊長は足早に、逃げるようにして去っていった。

 はぁ……とりあえず見に行くか。



「おぉ…壮観」


 わたしは闘技場のようになっている訓練場のへりに立ち、そこから中央の訓練場を眺める。

 剣の素振りをする者。案山子と、あるいはヒトと剣で打ち合う者。少数だが、槍を使う者もいた。

 それぞれが違う鍛錬を行っているが、それぞれ高い練度を思わせる動きで圧倒される。いいね、こういうの。


「…ここまでの戦力っているのかな?」


 正直に言うと、世の中はかなり平和である。小さないざこざはあれど、国同士の大きな争いは、かれこれ500年ほど起きていない。……わたしの記憶が正しければ。


「まぁ備えあれば憂いなし、ってことなのかなぁ…」


 それに雇用を生み出す為にも必要ではある。この仕事で食べているヒトもいるのだからね。

 ひょいっと訓練場へと降り立つ。ふむ、皆集中しているのか、気付かな…あ、隊長ら辺は気付いたな。とりあえず手を振っておこう。おいこら、露骨に嫌な顔するな。



◆ ◆ ◆


 いつものように新人教育、まぁ訓練を行っていると、見慣れた、出来れば見たくない存在が目に入った。

 真っ白な髪に燃えるように煌めく紅の瞳。小柄な体。

 間違いない。魔王、ユーリ様だ。見た目幼女だが、あぁ見えて俺より歳上だしな……あ、手を振ってきた。おいこら、振り返すんじゃねぇ。目を付け……あぁ。完全に付けられたな。頑張れ、新人。


◆ ◆ ◆


 なんでこんな所に小さな子がいるんだ? しかも隊長たちに手を振ってるみたいだし…あれか。隊長の子供か? なら俺も手を振っといたほうがいいか。お、こっち来た。


「あなた、新人さん?」

「え、ああ。まぁ、新人だな」

「そう……なるほど。ふふっ、確かに今年は優秀なのかしらね」


 歳に見合う声で、しかし歳に見合わない言葉遣いに仕草。それに少し気圧される自分がいた。この子は、一体……


「君は誰だ?」

「知りたい?」


 身長差があるため、少女が俺の顔を見上げる。少し上目遣いで、不覚にもドキっとしてしまった。何考えてるんだ俺。ロリコンじゃねえぞ。


「……ロリコンねぇ」

「だからちげぇ!」


 ……ん? なんで俺が考えてたこと分かったんだ?


「ふふっ。分かりやすいもの。うん、高得点かな」

「な、に?」

「たいちょー。ちょいとこっち」


 俺の疑問には答えずに、間の抜けた声を出して手招きで隊長を呼ぶ。それに対し、戸惑う素振りも見せず隊長が此方に歩いてきた。

 隊長のことを気軽に呼びつけるって一体なにもんだ!?


「どうしました?」

「この子ねぇ、結構見込みあると思うんだ。わたしの魅了にも耐えたし」

「ほう……」


 いきなり告げられた爆弾発言に思わず目を見開く。み、魅了!?


「なるほど……確かに見込みありですね」

「でしょう? じゃああとはヨロシク」

「はい」


 そう言って少女は去っていった。一体なにもんなんだ…?


「…気になるか?」


 あまりにその子の後ろ姿を凝視していると、隊長から尋ねられた。嘘をつく必要も無いので素直に頷いて返す。


「…はい」

「そうか。なら教えてやろう。あの方はユーリ様だ」


 ユーリ、様? どこかで聞いたことあるような……


「……お前城で働くなら魔王様の名前くらい覚えとけよ」


 あぁそうだった。ユーリ様って魔王様の……


「えぇぇぇ!?」


 あ、あれが!?あのロリむす…


「かはっ!?」


 な、なんだ!?いきなり腹を殴られたような…


「…お前くれぐれも変なこと考えんなよ。死にたくなかったらな」

「……まさか」

「ああ。魔王様だぞ? お前の考えなんぞ全部筒抜けだ」


 ……やべぇ。俺、ヤバい方の目に止まっちまったかも。


「かもじゃねぇな。確実にだ」

「………隊長」

「なんだ?」

「………今日休んでいいっすか」

「…まぁ、いいか。明日はみっちりやるからな。ちゃんと休んどけ」

「はい……」


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