終わったぁ!

「……終わった」


 終わった…終わったよ! あの終わるかも分からなかった書類の山が視界に一つも映らない。

 


「お疲れ様です……(まさか終わるとは思いませんでしたが)」

「ア゙ア゙?」


 アニスが小さく呟いた言葉に思わず唸る。


「冗談です」


 冗談に聞こえなかったんだが……まぁ、いいか。


「もう仕事ない?」


 椅子から飛び降りつつ尋ねる。まぁ、流石にこれだけやればもう「あります」……



「…あるの?」


 もう嫌なんだけど。

 思わずアニスを睨む。


「っ! そ、そんな顔しないでください」

「あ、ごめん」


 アニスから視線をずらす。するとほっと胸をなでおろしたのがわかった。

 どうやらわたしは、睨むと相手を怯えさせてしまうらしいんだ。たまに機嫌が悪いときに睨んじゃうんだよねぇ……反省。


「で、残りは?」

「収穫祭の祝辞ですが……」

「………」


 動きが止まる。え、やるの? まじで!?


「……声変えなきゃ」


 祝辞は国全体に伝わる。勿論、わたしの声で。

 ただね……自分で言うのもなんなんだけど……わたしの声ってかなり幼いのよね。

 さすがに一国の王たる魔王がそんな声じゃ締まらないからね。少し声を低くしないと。


「もういっその事そのお姿も…」

「やだ!」


 そんなことしたら街に忍び込めないじゃないか!


「……重要視するとこそこなんですね」

「当然」


 さてさて。祝辞は……まぁこんなんでいいか。

 あとは声を魔法で変えてっと……よし。








『収穫祭を楽しんでいるかな、皆』


 国全体に高くも低い、中性的な声が響く。国民全員がその声に耳を傾ける。


「あ、魔王様だ!」


 ある子供がそう騒ぐが、親に静かにするように叱られる。それだけ皆が聞きたがっているのだ。


『さて。今年も多くの恵みを得ることができたと思う』


 国民が頷く。


『だが、それは当たり前のことではない。常にこの恵みを得られるとは限らないからな。だからこそ今を楽しみ、感謝し、忘れぬようにしよう』


『では、最後にわたしからの祝いだ』


 その言葉が聞こえた瞬間、夜空に破裂音とともに大輪の火の華が咲き誇る。


「「「うわぁぁ!!」」」


 これら全て、魔王であるユーリ1人が魔法でやっているのだが、それをわざわざ知る必要は無い。

 鮮やかな華々が夜を彩り、人々の笑顔を照らし出す。


 五分ほど火の華が咲き誇り、夜の静けさを取り戻す。

 人々はその余韻に浸る……が、どこからともなく一人が呟いた。


「そう言えば、魔王様って、性別どっちだ?」


 




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