魔王様である、ユーリ様が抜け出して数分後。突然天井から男が降ってきた。魔力の痕跡からしてユーリ様ですね。

 男は状況が飲み込めないようで忙しなく目線をばたつかせていた。


「こ、ここは…?」

「ここは魔王様の執務室です」


 そう言うと男の顔が信じられないと言いたげな表情を浮かべる。分かりますよ、ええ。

 ……しかし、ここに来たということは、不敬を働いたということ。きっちりと取り調べさせてもらいましょうかね……。







 ◆ ◆ ◆



 今頃アニスが送った男を締め上げてるんだろうなぁとか思いながら、街歩きを再開する。

 わたしは魔王城で働いている全てのヒトを知っているから、さっきみたいに僭称したら一発で分かるけど、一介の兵士だと無理なんじゃないかなぁ。

 ちなみに、あんなふうに魔王城勤務だとか嘘を吐くことは、わたし…つまり、魔王に対する不敬を働いたということになる。

 なにそれ厳し! ってなるだろうけど、魔王城に勤務出来るのはほんとに選りすぐりのエリートだから、そんなヒト達を馬鹿にしたっていうのも含めて、当然の処罰だったりする。

 


「あ。これちょうだい」

「はいよ!熱いから気ぃつけて」


 露店にて美味しそうなクレープを発見したので買い食い。もちろん城のお金じゃないよ? わたしのポケットマネー。一応魔王様にもお給料はあるのですよ。それも結構な額の。

 ……まぁ、忙しすぎて使う機会がないから、ほとんど国の運営に回してたりするんだけど。これ国家予算とあんま変わらないな。


 買ったクレープにかぶりつく。ほのかないちごの酸味と、チョコレートの甘みが口いっぱいに広がる。ふむ。今度城のシェフに作らせてみるか。また食べたいほど美味しいし気に入った。








「なぁ。あれってさ…」

「……言うな。見るな」


 はむはむとクレープを食べていると、ちろっとそんな言葉が風に乗って聞こえた。少しだけ見てみると、どうやら街を警備している衛兵らしい。

 ……魔王わたしの姿、知ってるもんね。

 

 魔王わたしの姿を知っているのは、魔王城でも結構限られている。でも、衛兵とか、まぁ兵士はね。わたしがたまにから、結構知ってるヒトは多い。

 …とりあえず手を振っとくか。あ、逃げた!?






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