「第五話」罪悪感
客足が滞って来たところで、私とバンはその場から立ち去った。沢山の銅貨と、数枚の銀貨を袋いっぱいに詰めて。
「ほら、言ったでしょ? 泥棒なんてしなくてもこんなにお金を稼げた!」
「……うん」
先程から、バンの元気がない。下を向いたまま、ただただ銅貨の入った袋を握りしめていた。その様子からは暗い感情……罪悪感のようなものが、滲み出ていた。
「……まぁ、私みたいにやれとまでは言わないけどさ」
その顔を見るのが辛くて、どうにかしたくて。私はいつか……ゼファーに言われた言葉を、自分なりに噛み砕いて送ってみる。
「人に平気で迷惑をかけるような人間だけには、ならないでね」
バンはとても複雑な顔をしていた。
正直私は、ダメなものはダメだと思う。だからこの子がやったことは絶対に駄目だし、これからもやってはいけない。でも生きるためには仕方ない……そうするしか無い人がいるということも、この街に来てから現実味を帯びてきているのも事実だった。
なら、せめて。
「心の中で、ごめんなさいを言える……ちょっとでもいいから申し訳ないって心を傷められるような、そんな心持ちならまぁ……まだいいと私は思うよ」
「……」
バンは更に俯いた。抑えていた何かは嗚咽として溢れ出し、そのまま目元を抑えることもなく……ボロボロ、ボロボロと……大粒の涙を両目から滴らせていた。私はそんなバンを見て、心底安心した。ここで彼が素直に警告を受け入れていなければ、きっと悲しい別れ方をしただろうから。
ああよかった、この子にちゃんとした罪悪感があって。
「アリーシャさん……」
「よし、それじゃあまずは腹ごしらえを……」
「ごめんなさい」
え? 突然の謝罪に、私の思考が凍りつく。──背後の、気配。振り向くとそこには、刃物で今まさに襲いかかってこようとしている男がいた。
「っ!」
魔力を練り上げ、拳を突き出す。ナイフではなく手首を狙った一撃は、そのまま凶器をはたき落とす。すかさず膝蹴りを叩き込むと、巨体の男はぐったりとしたまま倒れ込んだ。
「バン、危ないから下がってて! ここは私が……」
振り向くと、既にバンは囚われていた。丸刈りの男に襟首を掴まれ、首元にナイフを当てられていた。
「……ごめんなさい」
バンのその表情には何故か、未だに罪悪感が残っているように見えた。
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