第15話 「ディフェンス」の基礎
「「「29っ……30っ……!!」」」
体育館内に罰ゲームの筋トレの回数を数える声が響く。
--速攻の結果、コートプレイヤー8人、キーパー2人の10人が罰ゲームを受けるハメになった。
もちろん俺もその中の1人で、腹筋、背筋、腕立て(なぜか罰ゲーム人数が多いため追加された)を終えてスクワットが今ちょうど終わったところだった。
「はぁ……、はぁ……。きつい……」
息も絶え絶えになりながら膝に手をついて心臓の鼓動を落ち着かせる。陸上部時代に筋トレはしていたが、中学最後の試合を終えてから半年以上サボっていたため、かなり体力が落ちているようだった。
「終わったか。ふむ、体験組は次で終わりだな。よし、今日も6対6やるぞ!」
「「押忍!」」
また今日の最後も6対6のようだ。俺は今日も外から眺めようとコートの脇へと移動する。
「あ、和馬。ちょっと待て」
「は、はい! ……?」
ふと途中で部長に呼び止められる。何かあったのかと思い足を止めると、思わぬ言葉が返ってきた。
「今日、ディフェンス側やってみるか?」
「……はい!?」
「ディフェンスの人が少なくてな……。なに、ディフェンスって言っても左の端、「左の1枚目」と呼ばれるところで守ってほしい。とりあえずボールのほうを向いて、あとは正面の相手にボールが渡ったらプレッシャーをかけるだけでいい。やってみるか?」
「……はい! やってみます!」
……正直自分ができるか不安ではあったが、せっかくの機会である。俺は悩んだ末了承して、ディフェンスの方へと向かった。隣には弘樹がいる。
「お、和馬! 今日は1枚目のディフェンスか!」
「う、うん。部長にやってみないかって言われて……」
「オーケー! 大丈夫だって、とりあえずボールの方向いて手を広げておいて、自分の前のサイドがボール持ったらプレッシャーかけて、余裕があったらパスをカットしてみな?」
「わ、わかった!」
弘樹にも部長と同じことを言われるが、正直いまいちよくわからない。とりあえず手を広げて守ればいいのか。
「よし、始めるぞー」
--ピィィィッ!
いつのまにか手にホイッスルを持った部員が、部長の声かけと同時に手を挙げてホイッスルを鳴らす。
ホイッスルと同時に、攻め側の人たちがボールを回している(のちに聞いたが、ボールを回してディフェンスを撹乱させるのが狙いのようだ)。
「45°OK! プレス!」
横の弘樹が腕を伸ばしながら何かを言っている。おそらく自分の前のポジションの名前を呼びながら、見ているというのを言葉で表しているのだろう。見様見真似で俺も真似をする。
「さ、サイドOK!」
自分の前のサイドを確認してボールの方に視線を向ける。
--ボール見ながら自分のポジションの人見るの難しい!!
当たり前であった。ボールに目線を向ければ人が視界から外れてしまう。かといって人を見ているとボールが視界から外れる。
--シュッ……バチィィッ…
--ピィィィ!
どうするべきかと思案しているうちに、逆側のサイドからシュートが打たれてキーパーが止めて、ホイッスルが鳴った。おそらくディフェンス成功ということらしい。
ふと一息つく時間になったようで、この時間の間に弘樹の元に寄って先ほどの悩みを聞いてみる。
「あー、オフェンスとボールの見方? うーん……簡単にいうと、ボールを見ながらチラチラオフェンスを見て位置を確認する……って感じかな。見てないうちにオフェンスが移動しててフリーになっててシュート打たれるのを防がなきゃいけないから、定期的にチラ見でオフェンスの位置を確認するんだよね」
「なるほど……」
なるほど、そういうことか。要は陸上のトラックの時に後方をチラッと確認するのと同じにすればいいのか。
--ピィィィ!
納得すると同時に、再開の笛がなった。慌ててディフェンスに戻る。先程の弘樹のアドバイスを参考にチラチラオフェンスを見やる。
「サイドOK!」
なるべく大きな声を出しながらボールの動きを追う。ふと弘樹のところのポジション(右45°)の人が攻めてくる。弘樹がディフェンスするが、競り合いながら左側に寄ってきた。
「和馬! 寄って!」
ふと弘樹の言葉が聞こえて自分も弘樹にも寄っていく。オフェンスはそれを見ると、サイドにボールを落とす。
--しまった!!
ボールを受け取ったサイドはそのままジャンプしてシュートを打つ。放たれたボールはゴールポストに当たってネットを揺らした。
「ご、ごめ……」
「和馬! ナイスフォロー!」
謝罪を伝えようとしたが、それより先に部長が大きな声で声をかけてくる。
「……今のは和馬のせいじゃないからな?」
弘樹も近寄ってきながらそう伝えてくる。何故だろうか?悩んだ顔が出ていたのか、弘樹が話を続けてくる。
「まだハンド始めたての和馬は分かんないかもしれないけど、シュート決定率は45°よりサイドの方が低いんだ。単純にジャンプした時、ゴールの角度的に打てるコースが少ないからな。だから、45°から打たれるよりサイドに打たせた方が正解なんだよ」
「な、なるほど……?」
「だからさっき、俺がディフェンスでサイドに寄ってきた時に1枚目は45°のディフェンス……2枚目に近寄ってカバーするのが正解なんだよね」
そうなのか、と純粋に納得する。やはり考えながらやるのは難しいと実感した。
--その後時間まで6対6をやったが、弘樹のサポートのおかげで少しでも戦えた……と思う。
-第15話 完
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます