第14話 シュートのコツ

 休憩が終わり、部長の指示のもとゾロゾロと全員でゴール付近へと集まる。


「とりあえず、オールコートで速攻練習をする。緊張感を出すためにも、1人5本ずつ打って、3本以上外したやつは腹筋・背筋・スクワットを30回ずつやること。キーパーは1巡ごとに変わるが、キーパーもメンバーの人数……今日は20人か。20人中、15人以上決められたら同じく筋トレとする。気を引き締めてやるように」

「「押忍!」」


 まさかの罰ゲーム付きだった。


(これは俺、罰ゲーム確定じゃね……?)


 そんなふうに思っていると、ふと弘樹が声をかけてくる。


「大丈夫だって。和馬は足早いし、とりあえずボール取ることだけ意識してればいけるっしょ!」

「そんな無責任な……」


 笑顔でサムズアップする弘樹にゲンナリしながら、2人で列に並ぶ。そのまま弘樹が話を続けてくる。


「まぁ、なんとかなるって! ……まぁ、ひとつアドバイス言っておくと、走ってボールを受け取る時は片手を体の前に出して、手のひらに当てる感じにして床に落とすんだ。その状態からドリブルするとうまく行きやすいぜ」


 なるほど、1回でとるわけじゃなく、わざと落としてドリブルにするのか。ふと前を見ると、ちょうど篤の番だった。

 篤が走り出す。一気に加速するとキーパーからボールが緩やかに投げられた。

 篤は飛んできたボールを左手に当てて前に転がすと、そのままドリブルしてゴールへと向かい、ゴール付近でジャンプすると、腕を振り抜く。打ったボールはゴールのすみに吸い込まれていく。


(す、鋭い……! あんな勢いのシュート打てるのか!)


 俺はまだジャンプシュートをあんな威力では打てない。一体どれだけやればあんなシュートを打てるのか。


 とりあえず、自分の番まで並んで待つ。少し待っていると、自分の番が来た。


「よし、和馬。いけ!」

「押忍!」


 部長の掛け声と共に走り出す。コートの半分くらいに到達してから後ろを振り向いた。


 --フワッ……


 振り向くと同時にキーパーがボールをふんわりと投げてくれる。俺は弘樹のアドバイス通り、ボールを左手に当てて前に落とし、そのままドリブルをしてゴールへと向かう。6mラインに近づいてくれば、ドリブルをやめて昨日教わったジャンプシュートのステップを頭の中で思い浮かべながらジャンプする。


(左、右、左っ!)


 動画でイメージをしっかり掴んでいたからだろうか、思ったよりすんなりとジャンプすることができた。空中でシュートフォームをとると、ゴールに向けて腕を振り抜く。


 --ヘロヘロ……


 まるでそんな効果音が出ているかのように俺が打った弱々しいボールは、キーパーの正面に飛びあっけなく止められてしまう。


「和馬! もしあれならジャンプシュートじゃなくてステップシュートでもいいぞ!」


 見かねた部長がそう言ってくれる。俺はペコッと頭を下げると、再び列へと戻る。


 列に戻ると、前に並んだ弘樹が声をかけてくる。


「和馬、まだシュートのコース狙えない?」

「う、うん……」

「だよなぁ……。よし、和馬。次のシュート、ゴールの右のバー付近にボール叩きつけてみ? 多分バウンドシュートの方が入りやすいと思う」


 バウンドシュート……。地面に叩きつけて弾ませる、ってことか。確かにそれなら勢いよく投げれるかもしれない。


 俺は頭の中でバウンドシュートのイメージをしながら次の自分の番を待つ。


 ……右下…‥右下……


 そう頭の中で呪文のように反芻していると、すぐに自分の番がくる。


「よし、次は和馬! いけ!」

「押忍!」


 俺は先ほどと同じように走り出す。再びハーフライン付近で振り向けば、先ほどと同じようにボールが飛んでくる。

 先程のように左手でボールを落とし、ドリブルを続ける。


 ……ステップシュートで左下……


 そう頭で反芻してから、俺はドリブルをやめてステップシュートでボールを叩きつけた。


 --シュッ……バァン……


 俺の手から離れたボールが先ほどよりも力強く空気を切り裂いて飛ぶ。地面にぶつかると跳ね返り、止めようと滑り込んだキーパーの足を飛び越えてゴールに入った。



 ……俺が……ゴールを決めた……?



 初めてのゴールに俺は呆然と立ち尽くす。そんな俺に部長が声をかけてくれる。


「和馬! ナイスシュート!!」


 ふとその声で我に帰る。振り向いて部長の方を見ると、笑顔で称賛してくれる。

 俺は慌てて頭を下げて列に戻る。戻った先では弘樹が笑顔で待っていてくれた。


「和馬! よく決めたな!!」

「いや、弘樹のアドバイスのおかげだよ!」

「謙遜するなって! ……初心者がコースを狙って全力で投げるって難しいんだよな。だから、地面に叩きつけてやった方がキーパーは止めにくい、ってもんよ!」


 ガッツポーズしながらそんなふうに言ってくる。

 ……確かに、コースを狙うよりは力を入れて打てた気がする。


 俺はそんなふうに感じながら、初めてのゴールの感触に嬉しさを感じていた。


「よし、この調子で罰ゲーム回避しようぜ!」

「オッケー!」


 俺は弘樹にそう言うと、次のシュートも決めてやろうと決意するのであった。





 --なお、そんなうまくいくはずもなく、俺はその後のシュートを全て外して筋トレをする羽目になったのは当たり前である。


-第14話 完

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る