第10話 ステップとパスワーク
「よし、シュート練終わり!」
シュート練習に集中していると、ふと副部長の声が聞こえる。
結構な時間練習していただろうか。あまりにも練習が楽しすぎて時間を忘れていた。
次は何をやるのだろう。俺は次の指示を楽しみに待っていた。
「次はツーメン!」
「「「押忍!」」」
ツーメン……?ツタン……カーメン……?
何を言っているのかわからず、周りをキョロキョロしていると、部長が近くに来て説明してくれる。
「ツーメンっていうのは、走りながらパスキャッチすることを言うんだ。あんなふうに」
部長に促されコートに視線を戻すと、コートを走りながらキャッチボールをしていた。
走りながらボールを取って投げるなんて、難しすぎる……。
そう思っていることなど知らず、部長が「俺らも並ぼう」と言いながら列に並んでいく。俺は慌てて部長について行き列に並んだ。
少し待っていると、俺らの番が来る。
「とりあえず、走りながらのパスは、進行方向の少し先にボールを投げることが重要だ。それを意識してくれ」
そう言って先輩は俺の体の少し前にボールを投げてくる。
なるほど、走っている以上、胸の位置にボールを投げると受け取る時には体の後ろになるのか。つまり相手の動きの先を読んでパスを出す、と言うことなのだろう。
俺は部長から投げられたボールをキャッチすると、俺も部長の進行方向の前に投げる。
思ったより部長のスピードに合わせることができず、かなり前にボールを投げてしまった。
部長はダッシュをしてボールを取り、またこちらに投げてくる。
部長が投げるボールは、全くブレずにキャッチしやすいところで受け取ることができる。
走りながら投げるって言うのはこんなに難しいのか。試行錯誤しながらやっていると、すぐに次の人にパスする形となった。
「難しいだろ?もう一回やるから、そこで色々試してみると良い」
「はい!」
どうやるかを思案していると、部長が声かけてくれる。
ただ立ちながらやるパスと、走りながらするパスの違いに戸惑いながら、頭の中で考えて次の出番を待つ。
比較的待つことなく出番が来たので、部長と再び走り出す。
先程よりかは先を見越すパスができたと思う。
番が終わると、部長が声をかけてくれる。
「いいね、さっきよりも取りやすいパスだったよ。次はスリークロスだし、先に教えておこう。『スリークロス』って言うのは、3人で前方に走り出して、1人の相手の前を走る。そして後ろの人からボールをもらうと、もう1人が前を走るからボールを渡す。そして自分はコートの内側に切り返して再びボールを受け取る…。ひたすらこれを繰り返すんだ。とりあえず見てみよう」
そう部長がいうと同時に副部長からスリークロスの指示が出る。
先程2列だったが、部員たちは手早く3列に並び替えるとすぐに走り出した。
……なんだあれ……?
スリークロスを見て第1に思ったのは、それだった。
ぐるぐると螺旋を描くように走りつつボールを投げる。
頭がこんがらがりそうだった。
「3人か……。よし、佐藤! 混ざってくれ」
「はい!」
部長が弘樹を呼び寄せると、混ざれと伝える。
弘樹は駆け寄って近づいてくると、声をかけてきた。
「お、和馬、よろしくな! 大丈夫か?」
「お、おそらく……?」
「はは。まぁ、気楽にやろうや」
そう言って列へと戻っていく。
ちなみに俺は左端、部長が右端、弘樹が真ん中だった。
そして俺らの番が来ると、弘樹が俺に向かって走ってくる。
「和馬! 俺の前を走ってボール取ったら、部長に渡すんだ!」
慌てて俺が走り出すと、弘樹はボールを渡してくれる。そのままこっちに向かってくる部長にボールを渡した。
「よし、伊藤君はそのまま切り返してまた佐藤からボールをもらうんだ」
その指示を聞き、コート端で切り返す。そしてまたボールを受けとり、ボールを渡す…。
頭の中で考えた時はとても難しかったが、思ったより動くことができた。
順番が終わると、弘樹が声をかけてくれる。
「和馬! めっちゃ動けるじゃん! 頭いいな、お前……」
肩を叩きながら嬉しそうに伝えてくれた。部長も近づいてきて声をかけてくれる。
「ふむ、伊藤君はセンスがあるな。佐藤、お前はパスの位置が不安定すぎる。もっとしっかり取りやすいパスを心掛けろ」
「は、はい!」
俺を褒めてくれるが、弘樹にはダメ出し(?)を伝えてくれた。
「とりあえず、次のランはスピードを上げようか」
「「わかりました!」」
そう言いながら列に戻っていく部長。弘樹は部長が遠ざかるのを確認してからヒソヒソ声で話し出す。
「部長厳しいなぁ……。まぁ確かにパス乱れるのは俺の癖だからな……。ま、次も頑張ろうぜっ!」
そう言って弘樹も列に戻っていく。
スピードを上げるのか……。とりあえず遅れないようにしよう……。
そして自分達の番が来ると、再び走り出した。
先程よりも早い。当たり前だが、こんな中冷静にボールの受け渡しができるのだろうか……。
不安に思いながらも、なんとかボールを落とすことなく完走できた。
「はぁ……はぁ……」
緊張と疲れから息が乱れる。部長と弘樹が駆け足で寄ってきて褒めてくれる。
「和馬! よくあのスピードでボール落とさなかったな!」
「そうだな。かなりすごいと思うぞ」
「あ、ありがとうございます……」
肩で息をしながらお礼を伝える。少し動きが変わるだけでこんなに疲れるとは思わなかった。
部長は続けて話をしてくる。
「恐らく今日はあと6対6で終わりだな。時間も時間だし」
6対6……?なんのことだろう……
数字は人数を指しているし、試合のことか……?
そう頭の中で考えていると、分からないのを察したか弘樹が説明してくれる。
「6対6は、ディフェンス6人に対してオフェンスが6人で攻めるんだ。さっき教えたポジション、覚えてるか?」
「う、うん……」
「そのポジションに着いて、オフェンス側が点取れたら勝ち、ディフェンスはそれを阻止したら勝ち。って感じの練習だね」
なるほど、攻めと守りに分かれて点を取るか抑えるかってことか。
「うむ、佐藤の言う通りだ。伊藤君は今日外から見てポジションの動きを見ててくれ」
「はい!」
そう言われたのでコートから離れておく。
コート内では各ポジションに分かれて始まった。
オフェンス側がバスを回しているのに合わせて、ディフェンスが体の向きを変えていく。
隣で見ていた部長が、解説をしてくれる。
「ハンドボールの基礎として、『ボールから目を離してはいけない』と言うのがある。 目線を外した瞬間にシュートを打たれるからだ。 だから、目を離さず、体の正面に常にボールをとらえながらディフェンスするんだ」
なるほど、頭で考えながらやるのは難しいが、それを常に意識してやらなければならないのだろう。
ふと、オフェンス側の1人がスピードを上げてディフェンスに突っ込んでいく。ディフェンスの前で止まると横にステップしてディフェンスを振り切りながらシュートを打つ。打たれたシュートはキーパーに止められた。
「今のは、『ゼロステップ』っていう空中でボールをもらって両足で着地する技術だ。そうすることで次の動きを速くすることができる」
なるほど、そういう技術もあるのか。
やはり奥が深いスポーツだなと実感した。
その後、俺は時間が来るまで6対6の練習を見ながらハンドボールを学ぶことができた。
-第10話 完
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