第5話 ルールを覚えよう!

「帰ったら、ルール調べなきゃな……」


 家まであと少しのところを歩きながら、独り言のように言葉を漏らした。


 学校近くの駅から電車に揺られ15分、そして駅から歩いて5分が俺の家だ。

 通学に時間はかかるが、初めての電車通学が楽しみすぎて苦痛に思ったことはない。


 そのまま歩き続ければ、家の門が見えてきた。

 門を開け、一応ポストを確認する。ポストの中に入っていたチラシを片手に玄関の扉を開けて入っていく。


「ただいま〜」


 返事はない。おそらく母はキッチンで料理をしているから聞こえないのだろう。そう思い靴を脱げばリビングの方へと入っていく。


「ただいま、母さん。ポストに入ってたチラシ置いとくよ」

「あら、かずくん。お帰りなさい。ありがとうね?疲れたでしょう。まだご飯できるまで時間かかるからお部屋で休んでていいのよ?」


 ほんわかと返す彼女こそ、俺の母-伊藤菜緒である。

 普段はマイペースで優しい母なのだが、怒るとマジで怖い。


「ありがとう。じゃあ部屋でゆっくりしてるね。あ、これ弁当箱。美味しかったよ」

「あらあら、よかったわ。じゃあご飯できたら呼ぶわね」


 弁当箱を母に渡せば、リビングを後にして自室へと戻っていく。


 2階にある自室に戻れば、適当に鞄を壁に掛け、学ランを脱げばジャージ姿へと着替えてベッドに横になる。


「はぁ、疲れたな……」


 思い返せば本当に密度の濃い1日だった。ふと時計を見れば17時30分、夜ご飯を食べるのが19時付近であることを考えれば、まだ時間は十分にあった。


「あ、ルール……。調べるか……」


 ふと部長が言っていたルールを調べようと思い、ベッドから体を起こせば椅子に座り机に向き合う。

 机の上に置いていたiPadを起動して、ネットを開く。


「えっと……。『ハンドボール ルール』っと……」


 口にしながら検索をかける。様々なサイトがあるが、その中でもわかりやすそうなサイトを開けば、サイトの中のルール解説をじっくりと見始めた。



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 1時間近く、サイトを見ていただろうか。


「ふぅ、ルールも多いな……」


 一息つくと大きく体をそらして伸びをする。

頭の中でとりあえず理解したルールを反芻する


 ・ハンドボールは、40m×20mのコート内で行われる。ゴールの大きさは高さ2m、幅3m。ゴールエリアライン(キーパー以外侵入禁止エリア)はゴール前方6m。7mラインと呼ばれるものがあり、いわゆるサッカーのPKを打つ場所である。

 ・コートプレイヤー6人、キーパー1人の計7人で行われる。交代に上限はなく、試合内であれば自由に行っても良い。

 ・高校生以上は前後半30分、ハーフタイム10分or15分で行われる。前後半で決着がつかなかった場合は5分休憩ののち10分間おこなう。


「うーん、これだけでも難しい……」


 複雑、と言うまでもないが、なかなか難しい内容ではあった。


「あとは細かいものもあるな……」


 再びiPadに視線を戻せば、そこには細かいルールも書いてあった。


 ・ボールを持っていられるのは3秒まで。また、ボールを持って歩けるのは3歩まで。超えた場合は反則と見做し相手ボールとなる。


「やべぇ、覚えられないかもしれねぇ……」


 明らかに陸上よりも難しい。

 これを全部覚えなきゃいけないと考えると、軽く頭を抱えたくなる。


「……でも、やらないわけにはいかねぇよな……」


 ふと時計を見れば19時まであと10分くらい。もう少し集中して覚えるか、と気合を入れたその時、扉をノックする音が聞こえた。


「かずくん?ご飯できたし、お父さん帰って来たから夜ご飯にしましょう?」

「ありがとう、母さん。すぐに行くよ」


 声をかけてくれた母にすぐに行くと伝えてiPadを閉じる。


「……はぁ、父さんと母さんにも伝えないと……」


 ハンドボールをやることを両親に伝えるのもこの夜ご飯の時にしようと決めていた。

 ただ、父に伝えるのが少し億劫である。


 実は、俺が陸上をやるきっかけとなったのは父の影響であった。

 父が昔陸上をやっていて、俺にも陸上をしてほしいということで幼少期から陸上に触れていたのであった。


「ハンドボールやるって言ったら、反対されるのかな……」


 陸上をやめてハンドをやる、と伝えたら父はどんな反応をするのだろう。おそらく怒られるのだろうことは容易に想像できる。


「……はぁ、正直気が乗らないけど、俺はもうハンドボールをするって決めたんだ。どんな形であれ、しっかり伝えよう……」


 そう決意すると、部屋の扉を開けて階段を降りてリビングへと向かった。


-第5話 完

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