第1話 「かっけぇ!」


「あー、かったりぃ……」


 高校に入りはや1週間、周りがどんどんと友達を作る中、ため息とともに机に突っ伏して思わず呟く。


 俺は伊藤和馬。いかんせん人付き合いが苦手でなかなか馴染めずにいた。


「もっと俺にコミュ力があればな…。ま、無い物ねだりか……」


 別に人と話すのが苦手、と言うわけではないが自分から初対面の人に話しかけるのは苦手で、なかなかクラス内での会話に飛び込めず気づけば1週間こんな感じである。


「そういえば、5限ってクラブ紹介だっけ……」


 昼に入りそそくさとお弁当を食べ終えてしまい机に伏せながら、午後の授業のことを思い出す。


「うーん、どーすっかなぁ……」


 周りには聞こえないくらいの声でそう呟くと、起き上がり頬杖をつきながら外を眺めつつ考える。


「もう陸上は……やだな……」


 中学時代は陸上部に所属し短距離でそこそこな成績は残していたが、高校に入って流石にレベル的に厳しいと考えた俺は、何か他の部活でも入ろうかと考えていた。


「入るなら、バスケとかサッカーかなぁ……」


 王道であるバスケなどがいいかな、などと漠然と考えている。なお、野球部は坊主にしたくないためにすでに頭から除外されている。


「とりあえず、クラブ紹介を見てから、だな」


 そう結論づけると共に、昼の終わりのチャイムがなった。


「おっと、昼も終わりか……」


 そそくさと椅子から立ち上がると、俺はクラスの誰よりも先に教室を出て体育館へと向かった。





「あー、やっぱバスケかな……」


 クラブ紹介も大半が終わり、いろいろな部活を見ていたが1番惹かれるのはバスケだった。

 なにより、3Pシュートを打つ先輩のフォームがとても綺麗で美しかった。俺もあんなふうに綺麗にシュートを打てるようになりたい。


『次は、ハンドボール部の紹介です』


 ふとそんなアナウンスが聞こえた。ハンドボール?聞いたことはあるが、実際にあまり見たことはなかった。なんなら中学校にはなかったんじゃないか?そんな疑問を持っていると


「どうも、ハンドボール部キャプテンの丹野です」


 ゾロゾロと部員たちが準備をする中、一際背の高い先輩がマイクを握りしゃべっている。

でかい。何センチあるのだろう。推定でも180はあるのではないだろうか。

 俺自身、身長は170台でそこまで小さくはないと思っていたが、あの人を見るととても小さく思えてしまう。

 ふと、丹野といった先輩が続きを話しだす。


「みなさんは、ハンドボールをご存知でしょうか?ハンドボールは走る・飛ぶ・投げるの3つの要素が必要な、とてもハードなスポーツです」


(そんなバカな。走って飛んで投げる!? そんなのはとてつもなくハードで大変じゃん)


 ふと心の中でそう突っ込んでしまう。


「ですが、とてもスピード感のある、かっこいいスポーツです。今からみなさんには、シュート練習をお見せします」


 そう先輩が言うと、ふとゴールから結構離れた距離から、部員たちはパスを受けると片足でジャンプしてゴールに向けてボールを投げていく。


---カッケェ---


 その時、俺はその一言と共にシュートを打つ人に釘付けになった。

 ジャンプ力もさることながら、空中で腕を振り抜いてゴールへと突き刺さるボール。

 こんなにかっこいいスポーツがあったのか、と本気で思った。

 見惚れる間にも、先輩のアナウンスは続く。


「これが、ジャンプシュートという基本的なシュートとなります。空中で強くボールを投げるには、肩の力だけでなく、体幹も求められます。また、簡単にシュートを打てるわけではなく、試合ではディフェンスもいるため、接触プレーもあるのです」


 先輩の言葉と同期しているかのように、先ほどシュートを打った人が、今度はシュートを打つ人の目の前でそれの妨害を始めた。

 動きに合わせて手を広げて、シュートを打つためにジャンプした人の前で腕を高く上げてジャンプする。

 シュートを打とうとする人に軽くぶつかるが、打つ人はぶつかられながらも簡単にゴールにシュートを決めていく。


接触なんて反則ではないのか…?

 そんなふうに思った俺を見透かしてか、先輩の言葉が聞こえた。


「今、接触がありましたが、ハンドボールでは接触プレーは当たり前のようにあります。別名、空中の格闘技と呼ばれるくらい激しいスポーツでもあるのです」


 そんな先輩の言葉に俺は驚愕した


(接触有りだって!? ケガするじゃねぇか!)


 でも何故だろう、シュートを打ったり止めてる人達の姿がとても輝いて見える。


「おおまかにハンドボールの紹介をしましたが、時間も限られているので、最後にひとつカッコいいプレーをお見せします。『スカイプレー』と呼ばれる、空中でボールを受け取ってそのままシュートを打つプレーです。私が今から実際にお見せします」


 そういうと、先輩はマイクを近くにいた部員に預けると、ゴールから少し離れた位置に着く。そのままゴールに向かって走っていく。


 そして、先輩がゴールの外側の赤い線の手前からジャンプすると、それに合わせたかのように反対側から1人の部員がボールを空中に投げた。


 すると、先輩はそのボールを空中でキャッチすると同時に、シュートの姿勢になりゴールにボールを叩きつけた。


 ……勢いよく飛び上がった先輩のジャンプの高さも驚いたが、そのまま空中でキャッチからシュートまでの流れに1番驚いた。


 --まるで、空中で行われる演舞のような美しさだった--



(な、なんだあれ!? あれが、スカイプレー……? カッケェ!!)


「えー、これがスカイプレーと呼ばれるものになります。このように、ハンドボールはとてもカッコいいスポーツです。経験者はもちろん、初心者の方でもできるスポーツなので、ぜひハンド部にお越しください」


 マイクを受け取り〆に入る先輩の声は俺にはもう届いていなかった。


--高いジャンプ。

--空中でボールを捌く技術。

--何より、シュートの姿勢がかっこいい。


「……よし、俺、ハンドボールやろう」


 ハンドボール部に入る気持ちが、完全に定まった瞬間だった。


 なお、この後のクラブ紹介は何一つ覚えていなかった。


-第1話 完

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