第2話 いざ、体験入部!
クラブ紹介が終わり、体育館から教室へ戻る最中、俺はずっと頭の中でさっきのハンド部の紹介を思い返していた。
「いやぁ、本当にかっこよかった……。スカイプレーか……」
小さな声でボソッと呟く。
空中でボールをキャッチして投げるなんて考えられなかった。
ジャンプ力がなければできないし、肩が強くなければできない。
本当に魅力的なスポーツだと思う。
「ただなぁ……。陸上部上がりでできるのかな……」
1番の心配はそこであった。ジャンプすることもなければ、物を投げるのもほとんどやってない。強いて言えば、体育とかで野球やバスケをした時くらいである。
「うーん……。考えることも多いけど、とりあえず顔出してから考えるかぁ」
今日から放課後に体験入部がある。とりあえずは行ってみてからにしよう。
そう結論付けた俺は、放課後にハンド部に行くことを決めて教室へと戻った。
「……よし、いくか」
放課後になり、帰りのHRが終わるとカバンを背負えばそそくさと教室を後にした。
目指すはハンド部が活動している体育館である。
自然と足取りは軽く、楽しみからか歩くのが早くなっている。
体育館の扉を開けて中へと入ると、大きな声が響いていた。
「エイ、エイ、オー。エイ、エイ、オー」
掛け声をかけながらコートを往復するように走っているのがおそらくハンド部だろう。先ほど喋っていた丹野という先輩も見受けられた。
「すげぇ、みんな足並み揃ってる……」
陸上をやっていたからこそわかるが、足並みを揃えて走るのは難しい。
それを20人以上で合わせて走っている姿を思わずボーッと眺めてしまった。
ふと、その中の1人がこちらに気づいたようで、駆け足で近づいてきた。
「えーと、君は体験入部希望の子、かな?」
こちらに確認を取るように声をかけてきた先輩に驚きながら、返事を返す。
「は、はい! さっきの紹介がかっこよくて、やってみたいなぁ……と……」
「はは、ありがとう。是非是非、体験してみてよ!」
喰い気味に言ってしまい、流石に自分でも引いてしまったため語尾が弱々しくなったが、そんな俺に先輩は笑顔で言葉を返してくれた。
「とりあえず、こんなところじゃなくてコートの脇に行こうか」
そんなふうに言いながら移動する先輩に置いていかれないよう、駆け足でついていく。
コートの脇の方に目線を向けると、先ほど紹介をしていた丹野先輩がいた。
「山田、その子は?」
「あ、先輩。体験入部希望の子だそうです!」
「そうか、わかった。山田は練習に戻れ」
「は、はい! 失礼します! ……じゃあまた、そのうち話そうか」
先輩たちの会話を何の気なしに眺めていれば、活動に戻る先輩(山田というらしい)にそのうちと声をかけられて早口に返事をする。
「は、はい! お願いします!」
活動に戻っていく先輩の方に目線を向けていると、横にいた丹野先輩に声をかけられた。
「さて、君は体験入部希望、ということで間違いないかな?」
「は、はい! 伊藤和馬と言います!」
「伊藤君か、俺は部長の丹野だ。よろしく」
そう言って握手を求めてくる先輩に手を握り返す。
……とても大きい手だった。それはそうだ、先ほどあんな大きいボールを片手で扱っていたのだ。手が大きくなければできないのだろう。
「ちなみに伊藤君は、ハンドボール経験は?」
「えっと、無いです……」
「そうか、中学校では何部だったんだ?」
「陸上で、短距離をやっていました」
……流石にまずいだろうか。クラブ紹介では未経験も募集と言っていたが、どうみても経験者しかいなさそうに見える。
「ふむ…」
顎に手を当てて考える先輩。流石に断られるかと少し諦め気味に次の言葉を待っていると、帰ってきたのは意外な言葉だった。
「いいな! 陸上ってことは足も速そうだし、体力もあるだろうからすぐに上手くなると思うぞ!」
「あ、ありがとうございます……?」
思わず疑問形で返すほど、喰い気味に言葉を返してくる先輩に驚きながら、返事をする。
「さて、とりあえず今日は外から練習を見ててくれるか? なに、俺が横について少し話でもしながら練習を見ようじゃないか」
「え、部長さんが…? 練習大丈夫なんですか……?」
「なに、大会が近いわけでも無いし、君も何もわからないまま外から見るのもアレだろう? ……おっと、ただみんなに紹介はしないとな……。おい!集合!!」
何か俺が返事をする間もなくどんどんと話が進んでいるような気がする。
そんなふうに考えている間に、部長さんは部員全員を呼び出し始める。ゾロゾロとみんなが集まってくる。なんだか気まずい……。
「注目! 今日の体験入部の1人の伊藤和馬君だ。彼はハンドボール初心者なので、今日は俺はつきっきりで少し話をしようと思う。なので、練習内容は副部長の瀬川、お前が指示をしろ。」
「はい! わかりました、部長! よし、フットワーク練習!」
「「押忍!!」」
丹野先輩から指示されて返事をした瀬川副部長は、部員みんなに指示を出すと一斉に駆け足でコートの中心へ戻っていく。
「ちなみに伊藤君、あの中には経験者の1年生もいる。君と同級生、ってことだな」
ふと丹野部長がそんなことを教えてくれる。
(同級生もいるのか。仲良くなれるかな……)
そんなことを考えていると、部長は近くにパイプ椅子を持ってきてくれた。
「とりあえず座ろうか。座りながら色々話をしようじゃないか」
「は、はい!」
緊張しながらおずおずと渡された椅子に座る。
部長も横に座ってきた。
……はたして何が起こるのだろう。
そんなふうに考えながら、俺の体験入部は初日を迎えた。
-第2話 完
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