第73話
「違うっ!違うんだっ!ちょっと痛い目をみせてやれば、それで……それでよかったのにッ!」
「刃物を持っていましたから、そんな言い訳は通じませんよ。彼らは間違いなく我々を殺すつもりでした」
「ちがっ、なんでだよ!?アイツらが勝手に……っ!」
「ああ、自分が野盗を用意したのだとこの場で認めましたねぇ」
「……!」
ディオンの顔は一気に青ざめていく。
「元婚約者である我が妻に想いが残っていたのかは知りませんが、私情で消そうとするなど悪ふざけが過ぎませんか?これは国際問題になりかねません」
「ちょっと待ってくれよ!そんな……っ、俺は何もしていないんだ、何も悪くないっ!」
「王都の人通りの多い場所で妻を娼婦扱いしたことも忘れたとは言わせませんよ」
「だって……それはっ……リリアーヌがそうだって言ったから仕方ないじゃないか!」
「本当はあの場で死ぬはずだった……前回はコレットの優しさに生かされたのに残念ですよ」
「……ひっ、ぐ」
座り込んで泣き出してしまったディオンは以前の面影はない。
フェリベール公爵は己の身なりを整えるとヴァンに深々と頭を下げて謝罪している。
これはフェリベール公爵家の問題だけではないことは明白だった。
ヴァンは話を聞く気がないのを示すためにフェリベール公爵に手のひらを向けて制止する。
どうやら許すつもりもないらしい。
「な、ならば……愚息の命をもって償わせていただきましょう!」
「──父上っ!?俺を見捨てるのですか!?」
「ああ、そうだ!コイツは好きにして構いませんので気の済むままに処分してください!」
フェリベール公爵は容赦なくディオンを切り捨てた。
そんな中、床にへたり込んでいるディオンは大きく首を横に振りながら悲痛な叫び声を上げている。
それはディオンにとって地獄のような宣告だろう。
しかしヴァンは残酷な言葉を放つ。
「何を言ってるんですか?それは当然の処置でしょう」
「……っ!?」
「それだけで済むとでも?それとそこで黙っている三人も同じですよ」
俯いていたミリアクト伯爵と夫人もヴァンから声が掛かるとガタガタと震えている。
リリアーヌだけは、まだ訳がわからないと言った様子だ。
「ああ!もしかしてこれはシェイメイ帝国への宣戦布告ですか?どう責任をとってもらいましょう」
ヴァンの一言に会場が嘘のようにシンと静まり返っている。
以前は結果的にリリアーヌとディオンを助けるような形になってしまったコレットだったが、今回はミリアクト伯爵や夫人、リリアーヌに縋るような視線を送られても何も言わずに黙っていた。
あれだけコレットを罵っておいて、自分たちが窮地に陥った時は助けてもらえるなんて思っているのが驚きだった。
コレットはヴァンと結婚してシェイメイ帝国の人間だ。
元家族だろうが元婚約者だろうが繋がりはまったくない。
自分の家族がヴァンだけだと思うと心がスッとするような気がした。
ずっと縛られ続けていた家族との縁も切れたことも何も後悔がない。
「──なんの騒ぎだっ!」
会場に重たい声が響いた。人集りの中、道が開けていく。
そこから歩いてきたのは国王と王妃、そして王太子のウィリアムだった。
ウィリアムは友人であるディオンが絶望している様子を見て驚愕している。
しかしディオンは頭を抱えて「俺は悪くない」と呟くように言っているだけで、ウィリアムたちに気づいてはいないようだ。
王妃は青筋を浮かべて怒りを露わにして顔を歪めている。
パーティーが中断されたことがかなり不服なようで苛立ちを露わにしている。
ついにエヴァリルート国王と王妃の前に立ったヴァンはニタリと唇を歪めた。
ブワリと鳥肌が立つような恐怖と威圧感にコレットは目を見開く。
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