第64話


* * *



ヴァンと想いが通じ合ってから、コレットは今までにない幸せを感じていた。

唯一、気になっていたアレクシアとエルザとも会えて話せたことも嬉しく思えた。


しかし王都で買い物していた時に会ったリリアーヌとディオンのことが頭から離れない。


ヴァンに聞いたとしても「何も問題はないですよ?」と言って答えてはくれなかった。

あまりコレットが二人を気にしすぎて名前を出すと、ヴァンやメイメイが「やはり今すぐ消し炭にしましょう」「暗殺してきます」と怖いことを言うので気になってはいるものの黙っている。


あんなことをされたのに自分にもまだ情があるのかと思うと驚きであるが、コレットはもうこのままあの人たちと関わることがなくなればそれでいいと思っていた。


二人はコレットを娼婦だと思っていたので今頃、血眼になってエヴァリルート王国にある娼館を探し回っているだろうか。

リリアーヌとディオンがシェイメイ帝国の人間であるヴァンのことを知らないのだから手がかりはコレットだけ。

リリアーヌとディオンの様子を見るに黙って引き下がるとは思えない。

あと一週間で建国記念パーティーが開かれるのだが、コレットは胸が騒ついて仕方なかった。


(このまま何もないといいけど……) 


ミリアクト伯爵家はまだしも、エヴァリルート王国でフェリベール公爵家は大きな力を持っている。

もしヴァンがコレットのために、フェリベール公爵と対立することになったらと思うと気が気ではない。

コレットもフェリベール公爵に何度か会ったことがあるが、威圧的な雰囲気と値踏みするような鋭い視線を今でもよく覚えている。


(リリアーヌはもうフェリベール公爵には直接会ったのかしら……)


フェリベール公爵のことだ。

リリアーヌに直接会えば、彼女の本性をすぐに見透かすのではないだろうか。

リリアーヌを溺愛している両親とは違い、使えるか否かを冷酷に見極めているような気がした。


もうミリアクト伯爵家とフェリベール公爵家とは関係ない……そういい聞かせていた。


リリアーヌとディオンと会ってから元々厳重だった警備がさらに強化されていることも気になっていた。

ヴァンがコレットに心配させないようにしているのではないか……そんなことを考えながらコレットは今日も屋敷の中で窓を見ながら紅茶を飲んでいた。


相変わらず自由に外出はできないが、この生活にも慣れてシェイメイ帝国の言葉も話せるようになっていく。

今はメイメイやウロに頼んで日常会話もシェイメイ帝国の言葉で話すようにお願いしていた。


パーティーが終わればコレットとヴァンは一度、シェイメイ皇帝に謁見するために国に向かうことになっている。


ヴァンは相変わらず忙しそうで朝食をコレットと一緒に食べると、昼間はどこかに出かけて夕食までに帰ってくる。

何をしているのかを問いかけても「コレットの心配するようなことはしていないですよ」という言葉しか返ってこない。

コレットの外出は禁じられているし手伝えることもない。


その日の夜、コレットはヴァンに妙な質問をされた。



「コレットはこの国が好きですか?」



不思議に思い、コレットが首を傾けるとヴァンは笑顔で同じように質問を繰り返す。

妙な緊張感を感じてコレットは口篭る。



「コレット、答えて」


「…………わたくしは」



家族を捨て去ったコレットにとって、この国に大切なものはアレクシアとエルザの友人、二人くらいだろうか。

しかしミリアクト伯爵領の人たちはコレットに親切だった。


リリアーヌの面倒を見てばかりいる両親の代わりに色々な仕事を肩代わりしていたコレットは、父の代わりに領地を視察して領民の話に耳を傾けていた。

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