第63話 リリアーヌside15
両親が真っ青な顔で部屋に飛び込んでくる。
その慌てっぷりにリリアーヌは呆然としていた。
「お父様、お母様、そんなに急いでどうしたの?」
「どうしたのではない、これを見ろっ……!我々はいい笑い者ではないか!お前は一体、何をしでかしたんだ。!リリアーヌッ」
父の手には先ほどディオンが持っていたのと同じ紙が握られている。
「わっ、わたしは何もしていないわ!」
「ミリアクト伯爵家の名前に泥を塗るのもいい加減にしてくれっ!」
「──キャアアアッ!」
父がリリアーヌの胸元を掴んで持ち上げる。
父の怒鳴り声が初めてリリアーヌに向けられる。
コレットにはよくこうして怒っていたが、リリアーヌに対しては初めてだった。
リリアーヌはあまりの恐怖に涙を流していたが、父の背後にいる母は何故かいつものようにリリアーヌを庇うことなく、こちらを睨みつけているだけ。
そしてパンッという音と共にビリビリとした痛みが走る。
頬を叩かれたのだと気づいたリリアーヌはその場で崩れ落ちた。
「な、なんでぇ……?」
「こんなことならコレットの方がまだマシだった!この役立たずめっ」
「こんなに役立たずだったなんて……本当に最悪だわ」
軽蔑するような視線を向けられたリリアーヌは一歩も動けないまま固まっていた。
それから両親の怒りの矛先はディオンへと向かう。
今すぐ婚約を破棄するようにフェリベール公爵家に掛け合うという父。
(さすがお父様!あんなことしたけど本当はわたしのことを愛しているのねっ、わたしを守ろうとしているのよ)
ディオンは「この記事はすべてデタラメですよ!町に適当にばら撒かれているゴシップ記事を信じるのですか?」と引き攣った表情で言っている。
しかしそれが本当なのだとリリアーヌはわかっていた。
(だって……わたしのことも全部本当だものっ )
その数十分後、立派な髭を携えたフェリベール公爵がミリアクト伯爵邸に訪れた。
ディオンのことについて抗議する父にフェリベール公爵から鋭い視線を送られてリリアーヌは赤くなった頬を押さえながら肩が大きく跳ねさせた。
「ち、父上……っ!」
フェリベール公爵は「面汚しが」とディオンに吐き捨てるように言った。
ディオンは冷や汗をかいていて肩を丸めて小さくなっている。
(だっさ……やっぱりこんなやついらないわ!)
父も同じ気持ちだったようで、ディオンとの婚約を破棄するように言っているが、それを鼻で笑いながらフェリベール公爵は言った。
「コレットは賢く評判のいい令嬢だったが、リリアーヌはまったくダメなようだな」
「……!」
「婚約破棄か……別にこちらは構わない。しかし今後、リリアーヌと結婚しようなどと思う令息はいないだろうな。これだけの失態を犯して婚約放棄すれば、コレットの件も相まってミリアクト伯爵家の評判も地に堕ちる」
「そ、そんなことはっ……!」
「ここに書いてあるのはリリアーヌのことだけか?随分と領民には不平不満が溜まっているようだが……まさかコレットにすべてを任せて遊び呆けていたとは」
「……っ!?」
「笑い者になるのはどちらだ?」
いつのまにか立場が逆転していた。
フェリベール公爵がそう言うと父は黙り込んでしまった。
リリアーヌは何が起きたかもわからずに首を傾げる。
重たい空気の中、フェリベール公爵はディオンを見据えた。
「ディオン、この件はお前がすべての責任を取れ。これ以上、フェリベール公爵家は関与しない」
「え…………?」
「ウィリアム殿下と仲がいいから泳がせていたが……もうお前に価値はない」
「ま、待って……待ってください、父上ッ!」
フェリベール公爵はそう言ってディオンを無視すると何事もないように去っていく。
ディオンの絶望する表情を見てもいい気味だとしか思わなかった。
それはリリアーヌがフェリベール公爵が何を言っているのか意味を理解できていないからだ。
ディオンはフェリベール公爵の護衛に引き摺られるように去っていく。
何もわかっていないリリアーヌは、ただディオンを惨めだと嘲笑っていたのだった。
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