第62話 リリアーヌside14

となれば、ここで苦しんでマナーを学ぶ必要もない。

シェイメイ帝国という新しい土地に行って、贅沢をしながら暮らすことができる。

両親と離れるのは少し寂しい気もするが、リリアーヌを可愛がってくれない両親なんて必要ないと思い始めていた。


仮病も通じなくなり、リリアーヌを追い詰めようとする二人はもういらない。

ディオンと結婚したって、きっと遊んでばかりで役に立たないだろう。

勉強は面倒だし、マナーも退屈。

これからも何もせずに可愛がられて生きていきたい。


(またコレットお姉様にディオンを押しつければいいのよ。それですべての問題が解決するわ……!こうなったら絶対にコレットを娼館から見つけ出さないと)


リリアーヌは自分の計画がうまくいくと疑わなかった。


コレットに鉢合わせた日から一週間。

父や母が娼館を探し回っても、やはりコレットらしき人物は見つからなかった。

それに客人にシェイメイ帝国の人間が訪れたことはないという。


(どういうことよ……!娼婦でもないのになんでわたしよりも美しくなって、いい男を連れているなんて変でしょう!?)


リリアーヌの苛立ちは募るばかりだ。

爪を噛んでばかりいるせいか爪先がギザギザしていた。

それすらもコレットのせいだと思えて仕方がない。

あんなにも近くにいたのに、知らない間に引き離されていく。

それが恐ろしいのと同時に憎いのだ。


リリアーヌが苛立ちを抑えようと部屋を右往左往していると、慌ただしい足音が耳に届く。

ディオンがある紙を持って飛び込んでくる。



「ちょっと、ノックもなしに勝手に部屋に入んないでよ!」


「これっ、これを早くこれを見ろッ!」



ディオンはリリアーヌに紙を乱暴に渡す。

広げてみると一週間前にリリアーヌとディオンがコレットを見つけて暴言を吐いていた出来事と、王都で犯した失態を面白おかしく書いてある記事が載っていた。



「なによ、これ……!」



そこにはリリアーヌがパーティーでやらかした失態の数々と病がずっと仮病だったことも書かれている。

ミリアクト伯爵や夫人がろくに仕事もできずに領地の経営が悪化して落ちぶれている様子や嘆き苦しむ領民の声。

ディオンの悪どい手口で詐欺まがいなことをしたり、商人からフェリベール公爵家の名前を使い金を巻き上げていること。

婚約者がいるにもかかわらず遊び歩いている様子が事細かに書かれていた。

つまりは二人とも家名を汚すようなことをしていると暴露されている。



「こ、こんなことが父上にバレたら絶対に追い出される……!ミリアクト伯爵家にもバレたら俺はどうなる?誰だよ、俺を裏切ったやつはっ!」



気が動転しているのかディオンは訳がわからないことを口走っている。

ということは、ここに書いてあることは真実なのだろう。

ディオンのやっていることは悪質で犯罪まがいのことをしているので貴族社会から追い出されてもおかしくない。

これはディオンと婚約を破棄するチャンスになるはずだ。



「これをお父様たちに見せたら、あなたの評判はガタ落ち……わたしとの婚約は解消されるでしょうね!」


「なっ……!」


「今までわたしを馬鹿にしていた罰が当たったのよ!」


「お前だってこの記事を見られたら家族から見放されるに決まっているっ!社交界での笑い者じゃないか!」


「ミリアクト伯爵家にはわたししかいないの。残念だったわね!今までのバチが当たったのよ」



リリアーヌの部屋ではディオンと言い争う声が響いていた。

どうやらディオンはこの記事が読まれたらリリアーヌが両親から見捨てられると思い、リリアーヌと協力してこの記事が出回るのを防ごうとしたようだ。


(わたしがお父様とお母様に見捨てられるわけないじゃない!)


ディオンが追放されるのならリリアーヌは少しくらい社交界の笑い者になったっていい。

その後に『可哀想』だと、みんなリリアーヌを可愛がってくれるに違いない。



「フフッ、いい気味だわ!」



リリアーヌがそう言って笑った時だった。

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