第61話 リリアーヌside13

目の前にいる侍女と従者は言葉が通じているのかいないのかこちらを見て馬鹿にするようにクスリと笑っているだけ。

煽るような行動にますます頭にきてしまう。

そのまま背を向けて何事もなかったかのように去っていく姿を見てワナワナと震えていた。


リリアーヌは怒りのままディオンを連れてすぐにミリアクト伯爵邸に帰る。

ディオンは馬車の中で不満そうにリリアーヌに金を返した。


ドレスを買わずに帰ってきたリリアーヌを見て両親は驚いていた。

しかしコレットの話を聞いて、信じられないと言った表情で唖然としている。



「コレットが娼婦に……?シェイメイ帝国の人間と共にいたというのは本当か?」


「そうよ!その従者にわたしは傷つけられたのっ」



リリアーヌはそう言って首の傷を見せる。

薄っすらと刃物でつけられた傷があった。

両親は驚いていたが、リリアーヌはコレットが信じられないくらいの金持ちと一緒にいたこと。

信じられないくらい美しくなり、高級なドレスを着ていたことを話す。


チラリと見えたが荷馬車にはリリアーヌですら着たことのない超高級なブティックの箱がたくさん積み上がっていた。

伯爵家では手が届かないものばかり。

そしてこちらが太刀打ちできないほどの護衛を連れていたことも気になっていた。


(わたしはこんな苦しい思いをしているのに金持ちと王都で楽しく買い物しているなんて、ふざけんじゃないわよっ!)


リリアーヌはコレットをどうすれば苦しめられるか、そのことで頭がいっぱいだった。

コレットが出て行った後に新しく入った侍女が静かに紅茶を置いていく。

とても優秀なので父と母が褒めており、リリアーヌも従順で使えるからと気に入っていた。

彼女の母親がシェイメイ帝国の人間だと言っていたので、あの時にそばにいれば何を言っていたかわかったかもしれない。



「どこの娼館かはわかりませんが、リリアーヌの言っていることは本当です。コレットは相当強い味方を籠絡したようですよ」


「な、何ですって……」



ディオンがそう言うと辺りが沈黙に包まれた。

コレットがエヴァリルート王国の人間ではない人物を味方につけている。

そのことから思いつくのは、ただ一つではないのか。



「ま、まさか我々に復讐するつもりなのではないか!?」



その言葉に緊張が走る。



「そうよ……だってわざわざ王都で買い物するなんておかしいもの!わたしたちに復讐しようとしているに決まっているわ」


「娼館を、探してみた方がいいんじゃないの?もし、本当だったら……」



リリアーヌと母の言葉に父は「うむ」と返事を返して顎に触れた。

それから娼館を聞き、コレットが在籍していないかを調べると言った。


それよりもリリアーヌはコレットがディオンよりもずっとかっこよくて金持ちで優しそうな男に守られて幸せでいることの方が気に入らない。


(コレットお姉様は一人で平気だったじゃない……!それなのにあんな強くてかっこいい人に守られているなんてありえないわ)


リリアーヌが悔しくて爪を噛んでいると、ディオンも珍しく苛立った様子で両親と話している。

余程、侍女と侍従と男性にぞんざいに扱われたことが気に入らないのだろう。

フェリベール公爵家にも協力を求めて知り合いに声をかけてみると言っていた。


そしてリリアーヌはディオンを見てあることを思いつく。


(またあの素敵な人を奪っちゃえばいいんじゃない?)


金を奪うしエスコートもしない。

リリアーヌを守ってくれないクソみたいな婚約者、ディオンはもういらない。

この男の本性は最悪なものだった。


しかしあの青年は違う。

コレットなんかを守るために体を張って怒っていた。

何よりもコレットを優先していたあの青年を自分のものにしたら、あの強い護衛だってリリアーヌを守るために動くだろう。


(そうなったら最高じゃない……!)


リリアーヌの唇が大きく弧を描く。

それにディオンは彼らはシェイメイ帝国の人間だと言っていた。

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