四章
第58話 リリアーヌside10
リリアーヌはドレスを買いに行くことなど忘れて呆然とその場に立ち尽くしていた。
首の切り傷がジクジクと痛む。
(なに……今、何が起きたの?)
リリアーヌの前には美しく輝きを取り戻したコレットの姿があった。
リリアーヌはコレットが出て行った後のことを思い返していた。
最近、リリアーヌはミリアクト伯爵邸の自分の部屋に篭りきりだった。
コレットがいなくなってから、責任を擦り付けることもできずに、すべてリリアーヌのせいになっていく。
リリアーヌの何もできない姿を見て、侍女や従者たちの冷たい視線が針のように突き刺さる。
それが嫌で具合が悪いふりをするも、父と母によって用意された常駐の医師により、すぐに仮病だとバレてしまう。
リリアーヌ自身の評判がどんどんと落ちていくのを肌で感じていた。
何もできないのだと知られてしまう。
失望したといわんばかりのため息が怖くて仕方ない。
今まで輝いていた宝石が道端の石ころだと気づくように皆がリリアーヌを見限っていく。
リリアーヌも講師に教えてもらってがんばろうと思った。
あのコレットができることならば自分にもできると。
しかし講師たちはリリアーヌをまったく贔屓してくれない。
それにコレットの足元にも及ばないどころか子供よりひどいと言う。
その度に思うのだ。
いつまで経ってもコレットに追いつけないことが腹立たしい。
(わたしにはハンデがあるのに……!どうして誰もそのことを理解してくれないのよっ)
リリアーヌは自分が認められないことが嫌で現実から目を背けていた。
両親はコレットがいてこそ成り立っていた現状に気づいたのだろう。
リリアーヌを可愛がるどころか心配すらしてくれなくなった。
そんなある日、夜な夜な話し合っている声が聞こえた。
それはミリアクト伯爵家の未来を憂う声だった。
『リリアーヌがあんな状態でどうすればいいんだ……!ミリアクト伯爵家はどうなる!?』
『コレットがいた時はあんなことはなかったのに……領民からは不満ばかりで対応しきれないわ』
『リリアーヌには期待できない。公の場に出さなければならないのに出せば出すほどミリアクト伯爵家の評判は落ちていくじゃないかっ』
『どうしてコレットを追い出してしまったのかしら。あのまま閉じ込めておけばよかったのよ……!』
まるで夢から醒めるようだと思った。
『ディオンもリリアーヌが婚約者になった途端におかしくなった』
リリアーヌが部屋にいる間に、ディオンは外で遊びまくっていると聞いた。
そもそもあの男は元から性格が悪かっただけでリリアーヌと婚約したからああなったわけではない。
元々、評判が悪いことも侍女から聞いてリリアーヌは初めて知った。
コレットがいなくなって自由にしているだけ。だからリリアーヌが悪いわけではない。
リリアーヌは悔しくて唇を噛む。
病をわずらっていた時よりも、今の方が悔しくて苦しくてたまらなかった。
それと同じようにコレットに対する怒りで頭がおかしくなりそうだ。
(わたしがこんな思いをするのも全部コレットお姉様のせいよっ!コレットお姉様が勝手なことをするから、こんなことになったの。ミリアクト伯爵邸にいれば……!)
リリアーヌは部屋のテーブルを思いきり叩いて怒りを発散していた。
しかし生まれてから何もしていないリリアーヌの細腕はすぐに痛みに悲鳴をあげる。
真っ赤になった腕を擦って溢れ出しそうになる涙を拭った。
結局、ベッドの上で悔しさをぶつけることしかできない。
(わたしとコレットお姉様が違うのは当たり前じゃない!わたしが苦しんでいる間、ずっと楽しんでいたんだからっ)
しかしリリアーヌの病はずっと前によくなっている。
それは自分が一番よくわかっていた。
すべては両親の気を引くための嘘で、そうすればリリアーヌが優先されることも知っていた。
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