第57話
いつの間にか背後に控えていたメイメイは丁寧に腰を折ると早足で屋敷に向かう。
いつも思うが、ウロやメイメイを含めてこの屋敷で働く人たちは足音がほとんどないどころか気配すらない。
メイメイとウロがディオンとリリアーヌに攻撃を仕掛けた時もそうだが一瞬で移動していた。
部屋にいる時もメイメイが近づいてきたことに気づかずに驚いたことが何度もある。
コレットがメイメイと共に屋敷の裏に散歩に行った時に出てきたコレットよりも一回りも二回りも大きな男性たちをメイメイは一人で倒してしまったことは記憶に新しい。
どこからか出てきたナイフはすべて男性たちに深く突き刺さっていた。
その後、人を呼んで他の侍女もやってきたが軽々と男性たちを抱えて運んでいた。
メイメイはコレットよりは背も低く、細身で力があるようには見えない。
片目に眼帯をしているというハンデを感じさせない動き。
そんなメイメイのどこにそんな力があるのか不思議だった。
ヴァンにメイメイやウロが何者なのかをそれとなく問いかけてみると「メイメイは護衛兼侍女ですよ。ウロも同じです」という答えが返ってきた。
この屋敷で働いている者は皆、そうなのだというから驚きである。
「すごいのね」
「比べてみるとエヴァリルート王国の貴族や王族は隙だらけですね」
「……え?」
「情報が手に入りやすくていいんですけど、改めて脇の甘さには驚かされます」
ヴァンは何かを調べているのだと思ったが、コレットはシェイメイ帝国の貴族たちはどんな感じなのかと問いかけると、自衛ができなければ生き残れないという。
上層部になれば暗殺なども増えるので尚更だと語った。
ヴァンは話を切り替えるように「うがいをしますか?今日はゆっくりとお湯に浸かって休んだ方がいいですね。夕食には喉への刺激が少ないものに変えてもらいましょう」と、コレットを気遣いすぎて大変なことになっているヴァンを宥めようと口を開く。
「もう……ヴァンは心配しすぎよ!」
「もしコレットに何かったら僕は……っ」
「わたくしは大丈夫よ。ヴァン、落ち着いて」
「僕は常にコレットのことで頭がいっぱいです。あなたのことしか考えていませんから」
「~~~っ!?」
ヴァンの言葉にコレットは目を見開いた。
自分でもわかるくらいに頬が赤くなっていくのがわかった。
恥ずかしさからどう言葉を返したらいいのか悩んでいると、ヴァンはコレットの髪を愛おしそうに撫でている。
何故こんなにも愛されているのか、正直なところよくわからない。
(出会った時はクールだったし、大人しかったから……まさかずっとこんなことを考えていたのかしら)
けれど今はヴァンが与えてくれるものすべてが心地よく、彼に出会えてこうして共にいれることが心から幸せだと思う。
コレットは髪に触れている彼の手に重ねるように自分の手を置いて目を閉じる。
「ヴァンに出会えて本当によかったわ」
こうしてヴァンと再会できたことをきっかけに、コレットの人生が百八十度変わっていた。
あそこで彼に出会わなければ、どうなっていたのかわからない。
しかしそれは自分の方だとヴァンは言った。
「それは僕も同じですよ。コレット」
「……ヴァン」
「僕もあの場でコレットに会わなければどうなっていたかわかりません。コレットは僕の希望だ。それは今も変わりません」
「わたくしも、ヴァンが大好きよ」
コレットはヴァンの紫色の瞳を見つめていた。
包み込むように添えられた大きな手のひらは温かくて安心する。
そのままヴァンの顔が近づいてきて唇が重なった。
柔らかい唇が離れていくのが名残り惜しいと感じる。
見つめ合う瞳には熱が帯びているような気がした。
「愛してる。今度こそ君を守るから……」
そんな言葉に気持ちを答えるようにコレットはもう一度、ヴァンに口付けた。
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