第56話
何かあればすぐに王妃が隠蔽に動くため、ウィリアムに成長は見込めない。
そう思うとウィリアムもディオンも似たもの同士といえるだろう。
ディオンに婚約者ができたことで、ウィリアムもアレクシアと婚約しようと迫ってくるそうだがアレクシアは拒絶している。
「王家に嫁いだって将来、絶対に壊滅するわよ!あの男と結婚したら未来はないわ」
アレクシアは苛立った様子でエルザも腕を組んで頷いている。
三人での時間は楽しくてあっという間に過ぎ去ってしまう。
メイメイが「そろそろお二人を送ります」というまでコレットたちは喋り続けた。
笑いすぎたせいか喉がヒリヒリと痛んでコホンと咳払いをする。
アレクシアも「喋りすぎましたわね」と同じように軽く咳をしながら笑っていた。
最後にはヴァンがアレクシアとエルザに挨拶する。
さすがにヴァンがエヴァリルート王国の第一王子『シルヴァン』であることには言えなかったが、彼と結婚することは二人に伝えた。
「おめでとう、コレット」
「とても素敵な方ね!」
アレクシアとエルザは「お幸せに」と言ってコレットたちを祝福してくれた。
ミリアクト伯爵家の辛い日々に耐えられたのは間違いなくアレクシアとエルザがいてくれたおかげだ。
二人がいなければ、もっと前にコレットは潰れていたかもしれない。
名残り惜しいのもあるが、二人を送るためにコレットは立ち上がる。
相変わらず屋敷の周囲は警備で固められていた。
それにはアレクシアとエルザも不思議そうにしていた。
寝る間際までメイメイはコレットにつきっきりだし、コレットもこの警備の手厚さや屋敷から出ていけないことに疑問を持つもヴァンには問えないままだ。
コレットはアレクシアとエルザと手紙のやりとりをしていいとヴァンに許可をもらう。
「コレット様、また会いましょうね」
「今日はありがとう。手紙を送るわ」
「えぇ、また」
コレットは門まで出て、二人が乗っている馬車がいなくなるまで見送っていた。
次に二人に会えるのは建国記念パーティーになる。
そのパーティーでは元婚約者のディオンやリリアーヌ、両親と顔を合わすことにもなるはずだ。
(もうあの人たちはわたくしに関係ない。何を言われたとしても動じないわ……それにヴァンがいてくれるもの)
ミリアクト伯爵家にいる時、コレットはすべてのことを諦めていた。
言っても無駄だとわかっていたのもあるが、今になって何故あんな場所に逃げもせずに執着していたのかはわからない。
コレットが領地の仕事を肩代わりしても、リリアーヌより地味な格好をして大人しくしていたとしても、褒められることも認められることもない。
ミリアクト伯爵家のためにディオンを監視していたり、パーティーでリリアーヌを注意して連れ帰ったりしたことも無駄だったのだと自由になった今だからわかる。
空はオレンジ色に染まり、日が沈んでいく。
風が冷たくなるのを感じて、もう夜が近づいているのだと思った。
(ミリアクト伯爵家から出て行った日は、どんな空だったかしら)
もうすぐ月と星が夜空で輝くのだろう。
ミリアクト伯爵邸でコレットは眠れない夜はずっと空にある星を見ていた。
遠くを眺めていたコレットだったが、ふとヴァンの手が髪に触れた。
「コレット、楽しかったですか?」
コレットはアレクシアとエルザを呼んでもらったのに、まだヴァンにお礼を言っていないことに気づく。
「ヴァン、二人をここに呼んでくれてありがとう」
「コレットが喜んでくれて嬉しいですよ」
「とても楽しかったわ……喋りすぎて喉が痛いくらい」
「メイメイ、コレットに蜂蜜と薬を」
「かしこまりました」
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