第54話
(どなたかしら……)
ヴァンの父親代わりのゼゼルド元侯爵は亡くなっている。
結婚の書類が手元にあるということは、ヴァンの結婚相手であるコレットの顔を見に来て、どんな人物かを確かめてきたのではないかと予想していた。
「…………え?」
しかし実際に目の前にいる二人の少女の姿を見て、コレットは驚いて動けなくなるほどの衝撃を受けた。
「コレット様……っ!?」
「ああ、よかった!無事だったのね!?」
「……嘘っ、まさか」
コレットの目に涙が浮かぶ。
二人の少女はコレットの心の支えとなり、ミリアクト伯爵邸にこもっていて会えない間も、ずっとコレットを気にかけてくれた大切な友人たちだった。
「アレクシア様、エルザ様……っ!」
コレットは名前を呼んでから二人を思いきり抱きしめた。
久しぶりに会えた嬉しさや安心感から涙が溢れてくる。
「コレット、会えてよかったわ!ミリアクト伯爵家を除籍されたと聞いて、わたくし居ても立っても居られなくて、エルザとあなたのことを探したの!」
「でも見つからなくて……!もしかして何かあったんじゃないかって……もう会えないかもしれないと心配していたのっ」
「我慢できなくてエルザとミリアクト伯爵と夫人にコレットのことを尋ねて行ったの。そしたら〝失礼ですが、どんな関係ですか?〟と言われて驚きすぎて言葉が出なかったわ」
「アレクシア様と話して、もしかしたらコレット様が私たちに迷惑をかけないようにしたんじゃないかって思ったの……」
「あんなに手紙のやりとりをしていたのに、わたくしたちにそんなこと言うなんて変だもの」
アレクシアとエルザは大号泣しながらも必死に言葉を伝えてくれていた。
それだけでもコレットのことを心から心配してくれていたのだとわかる。
コレットはメイメイから布を受け取り涙を拭った。
「心配を掛けてごめんなさい。わたくしはお二人に迷惑をかけないように、今までやりとりしていた手紙をすべて燃やしたの」
「まぁ……!」
コレットはミリアクト伯爵邸から出て行く前に二人に迷惑をかけたくないと、もらった手紙を燃やして処分してしまった。
「私たちをもっと頼ってくだされば……っ!」
「心配っ、したのよ!?わたくしたちはいつでもあなたの力になったのに」
「……ごめんなさい。今までたくさん支えてもらったのに申し訳ないわ。これ以上迷惑は掛けられないと思ったの」
そう言って二人もコレットを優しく抱きしめてくれた。
こんなにもコレットのことを気にかけてくれて、とても嬉しく思っていた。
あの時は二人に頼ることなど考えられなかった。
迷惑をかけたくない気持ちが先に出てしまっていたからだ。
それだけコレットは追い詰められていたのだろうが、もしも二人に頼っていたとしてもミリアクト伯爵家が黙っているとは思えない。
そうなればコレットの存在が負担になってしまってしまう……そう話すと二人は涙ながらに「あなたは優しすぎるのよ!」「気にすることないわ。何もできなくてごめんなさい」と言ってくれた。
「それよりもリリアーヌがディオン様と婚約したと聞いたけど……」
「リリアーヌは表舞台にも出てこないし、ディオンは好き放題遊んでいるし、一体ミリアクト伯爵家はどうなっているの?」
「……!」
コレットはミリアクト伯爵家から出た理由やリリアーヌがディオンの婚約者となり、ミリアクト伯爵家を継ぐのだと伝えた。
ミリアクト伯爵はコレットを除籍した理由について、リリアーヌを長年にわたり虐げて我々にも迷惑をかけていたと語ったらしい。
だがミリアクト伯爵のいうことを鵜呑みにしている人はおらず、リリアーヌを可愛がるあまりコレットを追い出したことに気づいているそうだ。
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