第53話

エスコートを受けて、テーブルへと歩いていく。

ロマンチックな雰囲気に驚きつつもヴァンに問いかける。



「ヴァン、これは一体……」


「コレットと特別な夜を過ごしたくて用意しました」


「……特別?」



コレットは不思議に思い問いかける。

ウロが椅子を引いて、コレットが腰掛けた。

ヴァンはテーブルの上に一枚の紙を載せてコレットの前へ滑らせるようにして置いた。

シェイメイ帝国の文字で書かれた手紙、右下の端には赤くて大きな判子が押してある。


コレットは頭の中で言葉を訳しながら、ゆっくりと読み進めていく。

そして何の書類かがわかるのと同時に目を見開きながらヴァンを見た。



「ヴァン、これってまさか……!」


「そうです」



左下の端にはヴァンの名前が書かれている。



「皇帝陛下の許可を得るためにシェイメイ帝国に行っていたんです。時間もかかってしまいましたし、コレットを一人にしてしまって申し訳ありません」


「これはもうヴァンの名前が書いてあるの?」


「えぇ、コレットが名前を書いてシェイメイ帝国に書類を提出して夫婦となります」


「……!」



ヴァンと夫婦になる。改めてそう言われても実感がない。

ないけれど同時にこんなに嬉しいことがあっていいのかと思ってしまう。


ヴァンと結婚したいと思っていたが、その夢は父によって絶たれ、ヴァンもコレットの前から姿を消してしまう。

それからは地獄のような日々だったけど、運良くこうして再会できたことは幸運だったと思う。

ヴァンもあの日からコレットをずっと想い続けてくれた。

それが何よりも嬉しいのだ。


(わたくしも、これからはずっとヴァンのそばにいて、彼を支え続けていきたい)


コレットはヴァンの手の上に添えるようにして、手のひらを重ねた。



「わたくしも……」


「コレット?」


「名前を書かせて。早くヴァンと夫婦になりたいの」



コレットのほんのりと頬が赤くなっていく。

言葉にするのは恥ずかしいけれど、今はきちんと気持ちを伝えるべきだと思った。



「……ありがとう、コレット」


「こちらこそありがとう、ヴァン」


「ああ、夢が叶った……嘘みたいだ」



コレットが立ち上がるとヴァンはコレットを優しく抱きしめた。

背に回る逞しい腕に抱きしめられると胸がいっぱいになっていく。


どのくらいそうしていただろうか。

コレットはヴァンから離れると書類に名前を書き込んだ。

コレット・ミリアクトではなく、今日からはヴァンの妻として生きて行くのだと決めた。


この瞬間、苦しんでいたあの家と決別できたような気がした。


その後、食事のためにコレットは再び椅子に腰掛けた。

コレットの前には上機嫌なヴァンが同じように座る。

蝋燭の光に照らされて幻想的な雰囲気だった。


ヴァンと食事をしながら、久しぶりに自分のことをたくさん話せた気がした。

それは暗い話ではなく、ヴァンと共に過ごす未来に向けての明るい話だった。

今まで溜まっていた黒い気持ちが嘘みたいになくなっていく。


ヴァンと過ごすこの屋敷での時間は辛い日々を少しずつ忘れさせてくれる。

その日、コレットは本当の意味で解放されたような気がした。



それからまた数日後、ヴァンはまた新たなサプライズを用意してくれた。

コレットが朝起きるとメイメイに「本日はコレット様にお客様がいらっしゃっています」と言われて首を傾げた。

熱々の紅茶を飲みながらメイメイに問いかける。



「お客様……?一体、誰かしら」


「ヴァン様がコレット様を喜ばせたいからと内密にするように言われおります」


「え……?」



コレットはメイメイに言われるがまま準備を済ませていた。

ドレスに着替えて髪を整えてからサロンで先に待っているという客人の元へと急ぐ。

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