第52話
それからリリアーヌの体を片手で持ち上げられるほどにヴァンの力が強いことも驚きだった。
ヴァンはシェイメイ帝国でどんな風に過ごしてきたのだろう。
ゼゼルド元侯爵に剣術を習ったと言っていたが、それだけではなさそうだ。
ウロとメイメイだって明らかに普通の使用人ではない。
シェイメイ帝国は強大な武力を持っていることでも有名だ。
そしてエヴァリルート王国もシェイメイ帝国の力を警戒していた。
彼らが本気になればエヴァリルート王国は何もできないまま降伏するしかないだろう。
それにヴァンはコレットのことを調べて知っていると言っていた。
『……お前がコレットを苦しめた元凶か』
ヴァンがどこまで知っているかはわからないが、きっとリリアーヌやディオンのこともすべてわかっているのかもしれない。
(ヴァンはどうやって調べたのかしら……従者はみんなシェイメイ帝国の人たちなのに)
ヴァンと距離が近づいたかと思えば、遠い人だということを実感する。
(もしもわたくしの事情にヴァンを巻き込んで迷惑をかけてしまったら申し訳ないわ)
そんなコレットの悲しげな表情をヴァンに見られていたとも知らず馬車は次の場所へ。
アクセサリーと髪飾りを選んでいても先ほどの言葉が頭を過ぎる。
しかしヴァンに心配を掛けてはいけないと、コレットは無理矢理、笑顔を作っていた。
屋敷に帰るとウロたちが出迎えてくれた。
荷物を運び出している間にコレットはメイメイと部屋に戻り体を休めていた。
そんな時、コレットから本音がポロリとこぼれ落ちる。
「メイメイ、今日は迷惑を掛けてごめんなさい」
「迷惑、ですか?」
「さっき王都の町で会ったでしょう?妹と元婚約者のことよ」
「ああ…………ご心配には及びません」
メイメイは一瞬だけ苦い顔をしたあとに何事もなかったかのようにコレットの前に温かい紅茶を用意する。
「もしあの二人が両親や公爵に報告したら、ヴァンに迷惑をかけてしまうかもしれないわ。もしそんなことになったりしたら……わたくしは」
「ありえません」
メイメイはハッキリと言いつつも手を動かしている。
そこまで言われてしまうとコレットも押し黙るしかなかった。
「でも……心配なの」
「ヴァン様に伝えておきます。やはり先に潰した方がコレット様が悩まずにすみそうだと」
「メイメイッ!?」
無表情で声の抑揚がないためか、メイメイの言っていることが冗談かどうかコレットにもわからない時がある。
だが、今のは冗談ではないような気がしてメイメイを見ると、やはり数本のナイフを手に持っているではないか。
コレットは「任せてください。暗殺は得意です」と言うメイメイを必死で止めていた。
その日から二週間ほど経っただろうか。
ヴァンは忙しいのか夕食を共にできなくなり、二週間もの間、屋敷を空けていた。
屋敷に来た時から初めてだったことに加えてリリアーヌとディオンとあんなことがあった後だ。
もしかしたらヴァンが面倒なことに巻き込まれていないのかと心配になっていたコレットはソワソワしていた。
ヴァンが帰ってきたと知らせを受けて、いつもより真っ暗な廊下をメイメイと共に進んでいく。
「メイメイ、いつも食事する場所とは違うようだけど本当にこの先にヴァンがいるの?」
「はい。ヴァン様はコレット様に見せたいものがあるそうです」
メイメイの言葉にコレットは首を傾げながらも後へと着いていく。
すると広い中庭にぼんやりと光が浮かんでいる。
いつもヴァンとお茶をしている色とりどりの花が咲いた明るい中庭とはまた違って見えた。
コレットに気づいたのかヴァンがこちらまで歩いてくる。
メイメイが深々と頭を下げて後ろに下がる。
そしてヴァンは愛おしそうにコレットの体を抱きしめた。
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