第47話


無意識に呼吸を止めていたようで、息苦しさに肩を上下に動かしていた。

ヴァンやメイメイが不思議そうにこちらに視線を送っていたが、コレットには目の前にいる二人の姿しか見えなかった。


(どうして、こんなところに……はやくどこかに行かなくちゃ)


コレットが一番会いたくないと思っていた人物がそこにはいた。

それは一ヶ月ぶりに会う妹、リリアーヌの姿だった。


コレットがどこかに隠れようと考えた矢先、ディオンと目が合った。

彼はこちらを見て目を見開いている。

立ち止まって驚いているディオンを見て、不思議そうにしていたリリアーヌだったが、ゆっくりとこちらを振り向いた。

リリアーヌの金色の瞳と目が合った瞬間、コレットの心臓がドクリと脈打ったのがわかった。



「嘘でしょう……!?まさか、本当に!?コレットお姉様じゃないっ」



先ほどまで怒っているように見えたリリアーヌだったが、コレットの姿を見た瞬間に桃色の唇が大きく歪む。

ディオンもニヤリと口端を上げて、興味深そうにこちらを見ている。

リリアーヌはヴァンやメイメイに視線を送った後に何を思ったのかこう言ったのだ。



「野垂れ死んだかと思ってたけど、コレットお姉様は娼婦になったのねぇ!」



コレットはその言葉を聞いて目を見張った。

ミリアクト伯爵家を出て、確かに何の連絡もないとなれば死んだと思ってもおかしくはない。

そうなりたくなければ教会か娼館に身を寄せるしか、家を追い出された令嬢が生き残る道はないだろう。

リリアーヌはヴァンと共にいる姿を見てコレットが娼婦になったと思ったようだ。



「元伯爵令嬢が惨めよねぇ……!ああ、そうだわ。もうお姉様なんて呼ばなくていいのよ」


「……っ」


「今はただの〝コレット〟だもの!あはは、可哀想にっ」



リリアーヌはディオンの前ということも忘れているのか、本性を出している。

しかしディオンも驚いた様子はない。

一カ月の間に二人の関係に何か変化があったのだろうか。

コレットは心ない言葉を胸元で手を握りながら聞いていた。



「娼婦になって上客を掴んだようだけど、所詮は娼婦……ふふっ、惨めよねぇ」


「……まさかこうなるとはな。落ちぶれたな、コレット」



リリアーヌは満足そうに笑い、ディオンも馬鹿にしたようにコレットを見ている。

どうやらコレットが娼婦になったと決めつけているようだ。



「ああ、そうだわ!あなたにいいことを教えてあげるわ!」



リリアーヌはそう言うと、コレットの隣にいるヴァンの前に立つ。

そして見たこともないような意地悪な顔で手を合わせている。



「この女は、コレットは元伯爵令嬢で家族に疎まれて婚約者にも捨てられたのよ?アハハッ、今はこんなに綺麗に着飾ってるけど本当は汚……っ」



しかしリリアーヌの言葉は最後まで紡がれることなく途中で遮られてしまう。



『メイメイ、ウロ……待て』



一瞬、コレットは何が起きたのかわからなかった。

ヴァンがシェイメイ帝国の言葉でメイメイとウロを引き留めている。

メイメイはリリアーヌの首元に短い刃物を両手で持ち、突きつけていた。


メイメイは先ほどまでは確かにコレットの後ろにいた。

そしてウロも荷物を運んでいたはずなのに、どこから出したのかディオンの首元に槍のようなものを向けているではないか。



「いっ……いやぁぁ、あぐ!?」


「……ヒッ!?」



リリアーヌの叫び声が大きくなる前に、リリアーヌの首に刃物の柄が食い込んで、喉を押しつぶすようにして叫ばさせなくさせているのだと思った。

周囲が気づかないほどに静かに、そして素早い動きは目で追うことすらできなかった。

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