第46話
コレットが考え込んでいるとヴァンに思いきり手を引かれて思考は遮られてしまう。
「今日はそのためのものを準備しに来たのですよ。さぁ、コレット……胸を張ってください」
「ちょっと待って、ヴァン……!」
ヴァンは王都でも指折りの高級なブティックへと足を踏み入れる。
それには店員も驚きを通り越して困惑していたが、メイメイがお金がびっしりと詰め込まれているケースを見せると、すぐにVIP扱いで別部屋へと案内された。
「時間があったら絶対にオーダーなのですが、今回は致し方ありませんね」
「そんな豪華なものは……」
「やはりドレスは華やかでいいですね。日常でも使えるものも用意してください」
ヴァンは次々にドレスや服を選んでコレットにあてがっては購入すると言って預けている。
コレットはヴァンを引き止める意味でも慌てて声を上げる。
「ヴァン、待って!こんなにたくさんいらないわ」
「コレットはいつも明るい色のドレスを着ていましたよね?懐かしいです。僕はオレンジ色が似合うと思うのですがどうでしょうか?」
「……ヴァン、わたくしは」
明るい色のドレスを見ると「羨ましい」「ずるい」と涙するリリアーヌと、怒っている両親の表情を思い出してしまう。
次第にコレットは地味な色を選ぶようになっていった。
しかしヴァンは笑顔で「コレットには明るい色が似合う」「好きな色を選べばいいんですよ」と言ってくれる。
今度はメイメイもウロもヴァンと共に明るい黄色か、ピンク色のドレスのどちらがコレットに似合うか、真剣に悩んでいる姿を見て、なんだか嬉しいような恥ずかしいような不思議な気分だった。
コレットの嫌な記憶が次々と塗り替えられていく。
意外にもメイメイが一番楽しそうにコレットの服を選んでいた。
ウロが「メイメイのあんな楽しそうな表情、初めて見ました」と驚いている。
店を忙しく動き回る店員たちにドレスを包んでもらっている間、コレットやヴァンはゆったりと紅茶を飲んでいた。
(こんなにたくさんのもの買ってもらったのは初めてだわ……それになんだか嬉しい)
人の顔色を窺うことなく、一緒に楽しんで服を選んでくれたことはコレットにとって生まれて初めての経験だった。
ヴァンはずっと否定されてきたコレットのすべてを肯定してくれる。
これからは自分の意思で選んでいいと言葉にはしなくても態度で示してくれているような気がした。
「……ありがとう、ヴァン」
「コレットが喜んでくれて僕も嬉しいです。僕のも一着、コレットが選んでくださいね」
ヴァンはいつもシェイメイ帝国の伝統的な服を着ているのだが当日はコレットに合わせるそうだ。
コレットがヴァンに似合いそうなものを選ばせてもらった。
(互いの服を選ぶなんて、なんだか夫婦みたいだわ)
店の外に出ても気持ちがふわふわして温かい。
ウロが大量の荷物を運んでメイメイが指示をしている間、次に回るお店を探すために歩いている時だった。
「──ちょっと待ちなさいよ!」
見覚えのあるプラチナブロンドの髪が目の前を横切っていく。
そしてコレットたちの前を歩いているライトブラウンの髪の青年の手を掴み引き留めようと声を上げている。
青年が振り返ると元婚約者であるディオン・フェリベールの姿があった。
「今度のパーティーに着て行くわたしのドレスを買いに来たんでしょう!?あんたのお金じゃないんだから返してよっ」
「今は父上に怒られて金が手にはいらねぇんだよ。適当に言い訳しとけ。これは俺がもらうからな」
「信じられないっ!こんなことするなんて」
「またパーティーに出ても逃げ帰るだけだろう?なら新しいドレスは買っても無駄だな」
「……ッ、そんなことないもん!」
「はぁ……うるせぇなぁ」
二人は言い争っていたがコレットには時が止まってしまったかのように何も聞こえなかった。
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