第43話
コレットと出会ったのはこの時期で空腹だったヴァンにたくさんのお菓子を与えてくれたり、好きだと言ってくれたことで生きる気力を取り戻しつつあった。
それはコレットを幸せにしたいという夢ができたからだ。
しかしその日の晩にゼゼルド侯爵に暗殺の指示が出された。
コレットの前からヴァンは姿を消すことになったが、ゼゼルド侯爵はシェイメイ帝国までヴァンを逃してくれたそうだ。
ヴァンはその時、コレットに何も言わずに国を出たことをずっと悔いていた。
しかしその時のヴァンには手紙を届ける術はない。
何よりエヴァリルート国王に自分が生きていることがバレてはいけないと思った。
それがゼゼルド侯爵を守ることにも繋がるとわかっていたからだ。
「僕はゼゼルド侯爵に心から感謝しているんです」
ゼゼルド侯爵はヴァンを殺すことなく、シェイメイ帝国に逃げた。
そして身を守る術を教えながら育ててくれたそうだ。
幸い、逃げる前に今まで溜め込んでいたお金を大量に持ってきたからか生活に困ることはなかったそうだ。
「あの場所で疎まれて死を待つしかなかった僕に居場所をくれたんです。彼こそが僕がこの世界で唯一尊敬する人だ」
「……ヴァン」
「そしてゼゼルド侯爵に頼み、シェイメイ皇帝に謁見を申し込んだ。僕の事情を聞いた皇帝はただ〝強くなれ〟と言いました。その意味を初めは理解することができなかった」
「…………」
「しかしシェイメイ帝国で暮らすうちに、その言葉の意味を理解しました。それから僕は死ぬ気で力や知恵をつけてから、再び彼に取り入りました。母を殺したあの女と僕を虐げた奴等に復讐するためならなんだってできた」
ヴァンの手のひらに力が篭る。
母を殺したあの女とは恐らく今の王妃のことだろう。
ヴァンはあの城で空腹に飢えるほどにひどい扱いを受けていた。そう思うのも当然だろう。
「アイツらはすべてを有耶無耶にしました。母は病で亡くなり、侍女は僕を拉致した罪で裁き、僕は事故で亡くなったことにしたそうですよ」
「……っ」
「今はシェイメイ帝国ではこの若さでなかなかいい地位まで上り詰めました。シェイメイ皇帝にも気に入られたからこそ、こうして自由に振る舞えるのですよ」
ヴァンの憎しみが彼を強くした。そう思うとなんだか悲しい気持ちになる。
「そして今、僕と皇帝陛下の思惑は一致しているいうわけです」
「……思惑?」
「えぇ、そのための準備はもう終わろうとしている」
ヴァンの仄暗い表情に背筋がゾッとする、
瞳から光が消えたような気がしたがコレットを見た瞬間、すぐに光が戻る。
「今まで復讐心だけで生きてきました。けれどゼゼルド侯爵はそんな僕を心配したのでしょう……死に際に彼は〝一度だけでいいからコレットに会ってこい〟と言いました」
「わたくしに……?」
「はい。ですが僕は復讐のためだけに動いていた。エヴァリルート王国に入国した際、その思いは強くなる一方だったのですが……そんな時、コレットが僕の前に倒れていたんです」
コレットがミリアクト伯爵家から追い出された日、彼はシェイメイ帝国からエヴァリルート王国へ移動していた。
偶然が重なってヴァンと会うことができたのだとわかる。
こんな奇跡が本当にあるのかと思えるくらいに。
「本当に不思議ですよ。こうしてコレットに触れているとあんなに強い復讐したいと思っていた気持ちが薄らいでいくんです」
やはりヴァンは今まで復讐することだけを目的に生きていたのかもしれない。
「ゼゼルド侯爵はこうなることを見透かしていたのでしょうか。さすがですね……まだ僕にこんな感情が残っているなんて驚きでした」
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