第41話
それにヴァンと買い物をするというのは初めてだったので嬉しかった。
次の日、コレットは着替えてから久しぶりに屋敷の外へと出た。
普通の貴族とは思えない厳重な警備が気になるところだが、コレットはヴァンにエスコートされるがまま馬車に乗り込んでいく。
メイメイやウロも一緒に行くらしく、護衛たちに指示を出しながら手際よく準備をしていた。
(メイメイとウロは普通の使用人ではないのかしら……)
ヴァンが普通の貴族とは何か違うことは薄々感じていた。
それと同様にメイメイやウロも同じ。
しかしそれもシェイメイ帝国との文化の違いかもしれないと思うことにした。
馬車が走り出すと次第に見慣れた景色が見えてコレットは驚いていた。
そしてコレットはここがシェイメイ帝国ではなく、エヴァリルート王国だということに気付く。
「ここって……まさか」
「そう、ここはエヴァリルート王国です。僕の恩人が残してくれた屋敷を買取りました」
「もしかして、ヴァンの恩人はエヴァリルート王国の貴族なのかしら?」
「はい、そうです。彼は僕をあの地獄から……母の生まれ育ったシェイメイ帝国に連れて行ってくれた恩人なんですよ」
「母……?お母様がシェイメイ帝国の方なのね」
「えぇ、そうです」
恩人はエヴァリルートの貴族で、ヴァンはシェイメイ帝国に住んでいる。
ますますヴァンのことがわからなくなっていた。
「ヴァン……あなたは一体、誰なの?」
「…………」
長い沈黙が流れる。
ヴァンの瞳から光が消えた様な気がした。
コレットはヴァンに無理をしてほしくはないと思い、口を開く。
「もし話せないなら無理には……」
「いいえ、コレットにはちゃんと話さなければと、ずっと思っていたんです」
「でも……」
「その前に確認したいことがあるのですが僕の話を聞いても今までと同じ様に接してくれますか?」
コレットはヴァンの言葉に頷くしかなかった。
同じ様に接するとは、今までと同じ態度でいて欲しいということだろうか。
(ヴァンは何を隠そうとしていたの?)
コレットはずっとヴァンの口から説明してくれるのを待っていた。
結婚するのなら尚更、ヴァンの立場が知りたいと思うのは当然だろう。
ちゃんと彼を支えていきたい……そう思うからだ。
しかしヴァンから返ってきたのは予想もしない言葉だった。
「母はシェイメイ皇帝の八番目の娘でした。そしてエヴァリルート国王の元に嫁いできたんです」
コレットは驚き目を見張る。
その言葉を聞いてヴァンが誰なのか、わかってしまったからだ。
「ヴァン……あなた、まさか!」
「えぇ、そうです。僕の本当の名前はシルヴァン……シルヴァン・ル・エヴァリルートでした」
シルヴァンは消えた第一王子の名前だった。
となれば、ヴァンはエヴァリルート王国の第一王子ということになる。
城で開かれる王家主催のパーティーでしかヴァンに会えなかったことを考えれば納得がいく。
しかし身なりからして彼が第一王子だとは想像することができなかった。
「どう、して……」
コレットは小さく首を横に振った。
「今まで黙っていて申し訳ありません」
「ごめんなさい、ヴァン……いいえ、シルヴァン殿下と言った方がいいのかしら」
「いいえ、今はヴァンですよ。コレットがそう呼んでくれたから、僕はこの名前を好きになれた」
初めてコレットと出会った時のこと。
名前を聞かれ答えたが、小さな声を聞き取れずにコレットは『シルヴァン』を『ヴァン』と聞き間違えてしまう。
しかし当時のヴァンは否定することはなく、そのままコレットにヴァンと呼ばれることは悪くないと思い訂正しなかったのだと語った。
「僕はコレットにヴァンと呼ばれていた時間だけが幸せだと思えた……今もそうなんです」
「…………」
「なので今まで通りに接してください」
ヴァンは縋りつくようにこちらを見ている。
この真実をすぐに告げられた後に、今までと同じように接することは難しい。
「もう僕はエヴァリルート王国の人間ではありません。死んだことになっているはずですから」
ヴァンは淡々と語っているが、彼の心情を考えると何も言うことができなかった。
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