第32話
「わたくし、もう貴族の令嬢では「出て行くなんて絶対に言わないでくださいっ!」
「……!?」
コレットが言葉を言いきる前にヴァンが叫ぶように言った。
「コレットが出て行くというのなら……この屋敷に閉じ込めますから」
「閉じ、込める?」
ヴァンの言葉の意味がわからずにコレットは次の言葉が出てこずに口篭る。
(今、ヴァンがわたくしを閉じ込めると言ったの?)
しかしヴァンはコレットを鋭く睨みつけるようにして手を掴んでいる。
「あの……ヴァン、わたくしは」
「コレット、ここにいてください」
ヴァンはコレットの腕を引くと、まるで逃さないとでもいうように反対側の手で腰に手を回す。
至近距離にあるヴァンの美しい顔にコレットは戸惑っていた。
コレットはヴァンの行動に戸惑いつつも、メイメイに助けを求めるように視線を送る。
メイメイはコレットを助けるためか、ヴァンに耳打ちするものの首を横に振り拒否していた。
「ヴァン様、コレット様が困惑しております」
「僕は譲るつもりはない」
ヴァンはコレットが『出て行かない』と言うまでは動く気はないのだろう。
ヴァンの真剣な表情とは裏腹に、コレットの頬が赤くなっていく。
(今すぐ誤解を解かないと……!)
コレットはヴァンの胸を押して抵抗しながら叫んでいた。
「ヴァン、わたくしの話を聞いて……!」
「出て行くなんて言わないでください」
「わかったわ、出て行かない!出て行かないから話を聞いて欲しいの!」
コレットがそう言うとやっとヴァンの手から力が抜ける。
(……閉じ込めるって何かの冗談よね?)
ドキドキする心臓を押さえつつも、離れたヴァンを見てホッとしていた。
「よかった……」
コレットが戸惑っていたが、いつもの表情に戻ったヴァンも安心からか息を吐き出しながらそう言った。
「コレットはずっとここにいていいんですよ?」
その言葉にコレットは胸元にあった手のひらをギュッと握った。
「でもわたくしはヴァンにこんな風によくしてもらっているのに何も返せないわ」
「返す必要はありません。むしろ僕がコレットに恩を返したいんです」
「恩……?もしあったとしても、もう十分よ。それにこのままだとわたくしの気が済まないの」
コレットがそう言うとヴァンは悲しげに眉を顰めた。
ヴァンの表情にコレットの胸が痛む。
でもこのままではいけないと強く思うのだ。
「わたくしもヴァンの役に立ちたいわ!」
「……コレット」
「それに今まで言えなかったんだけど、わたくしはもう貴族の令嬢ではないの。だからヴァンには……」
「コレットが伯爵令嬢ではないことは、もう知っていますよ」
「……っ!?」
コレットは驚き目を見開いた。
しかしメイメイに聞いたのかと思い、納得していた時だった。
「ウロたちに調べさせていました。アイツらがコレットに何かしたのは何となく想像できたのですが、真実を知っておきたくて……そうじゃないと徹底的に潰せませんから」
「え……?」
「コレットにまた悲しい思いをさせたくなかったので黙っていました。不快な思いをしたら申し訳ありません」
コレットはヴァンの言っていることが理解できなかった。
詳しく問いかけようとしてうまく言葉が出てこなくて口篭る。
まずコレットが貴族の令嬢ではないことを知りながら、こんな風に扱っていたことに信じられなかった。
(わたくしがもうミリアクト伯爵家にいないのにヴァンはどうして優しく接してくれるの?)
子供の頃、パーティーで話していただけのヴァンがコレットにここまでする理由は見つからない。
それにコレットに今まで何があったか知っているような口振りに戸惑いを隠せなかった。
(わたくしのことを調べたって言っていたけど、ヴァンは何者なの……?)
聞きたいことが色々とありすぎてコレットが困惑していると、ヴァンも「勝手に調べたこと、怒っていますか?」と申し訳なさそうにしている。
「いいえ、怒っていないわ」
しかしコレットは調べてくれてよかったとすら思っていた。
得体の知れない女が転がり込んでくればヴァンに仕えている人たちも不安に思うだろう。
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