第21話 リリアーヌside2


(自分だけ自由になろうとするなんてダメよ、コレットお姉様はずっとわたしのそばで苦しんでくれなくちゃ!)


そしてコレットはその令息を諦めるように伯爵邸から出るのを暫く禁じられたらしい。

リリアーヌはいい気味だと心の中で嘲笑った。


(コレットお姉様もわたしと同じ……ここにいればいいの)


令嬢として何もできなくても、両親はリリアーヌを愛してくれているし守ってくれる。

苦しむのはコレットの役目、愛されて幸せになるのはリリアーヌとそう決まっているのだ。


惨めなコレットがいないとリリアーヌの気持ちは晴れない。

リリアーヌと同じように、ドレスを着てお茶会を楽しむことも、パーティーに行って友人と話すことも許したくない。


コレットを毎日、呼びたてて今が幸せじゃないかを確認していた。

少しでもコレットにいいことがあれば両親に告げ口して、侍女に嫌がらせをさせた。

一人孤立するコレットを見ているとリリアーヌの心はスッと軽くなる。


そんな中、リリアーヌが十六歳の時にコレットの婚約者が決まってしまう。

それが由緒正しいフェリベール公爵家の三男、ディオンだった。

ライトブラウンの髪とディープブルーの瞳。

端正な顔立ちは惚れ惚れしてしまう。


まるで絵本で見ていた王子様のようなディオン。

そんなディオンの婚約者になれて、ミリアクト伯爵家を継ぐコレットがリリアーヌは羨ましくて仕方なかった。

優しい笑顔を浮かべてコレットと歩くディオンを見て、リリアーヌは歯を食いじばる。

しかし今回は両親に「羨ましい」と言っても解決することはなかった。


「リリアーヌを守っていくためなんだ!」

「リリアーヌは体が弱いから伯爵家を継いだり、子供を産んだりはできないでしょう?だからこれでいいのよ」


リリアーヌは納得できなかった。

体が弱く心配だという両親の言うことが、今度は弊害となってしまう。

リリアーヌの体調はよくなっていたことにしていく。

怪しまれないようにゆっくりと。


だけどこのベッドの上が心地よい。

それにミリアクト伯爵家はすべてリリアーヌのものでなければ気が済まなかった。

そんな時、リリアーヌはあることを思いつく。

それは再びコレットを地獄に落として苦しませ続ける方法だった。


(そうだわ……!わたしがミリアクト伯爵家を継げばいいのよ。こんな簡単なことにどうして今まで気づかなかったのかしら)


リリアーヌは病が少しずつ治ってきたと言って社交の場に出ようと思った。

自分の方がコレットよりも伯爵家を継ぐに相応しいと見せつけたかったからだ。

ドレスもアクセサリーも、リリアーヌが頼めば最高級なものを用意してくれる。

コレットは地味でいつも同じものばかりなのに。


それからミリアクト伯爵邸にやって来るディオンに「話を聞かせて」と言って部屋に呼び、リリアーヌに惚れさせていく。


(すぐにわたしなしじゃいられないようになるわ!)


リリアーヌが笑みを浮かべて楽しそうに話をすれば皆が喜んでリリアーヌを好きになる。

この美貌と弱さは武器になると知っていた。


(すべてはわたしの思い通りだわ!)


ディオンはリリアーヌが思っているより、ずっと素晴らしい男性だった。

なんでも知っているし、両親にも気に入られている。

何より顔がいいし、背も高くてかっこいい。


予想外なのはリリアーヌがディオンを奪おうとしているのに、コレットは悲しむどころか無関心だということだ。

三人で話していても両親に告げ口をしても何も変わらない。


(どうして悲しまないの!?どうして泣かないのよっ!?)


リリアーヌはあることに気づく。


(ああ、そう。みんなの前で屈辱を与えてやらないとダメなのね)


次の王家主催のパーティーでディオンにエスコートしてもらい、リリアーヌの素晴らしさを皆に知ってもらうことがコレットを再び追い詰めるのに必要だと気がついたのだ。

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