二章

第20話 リリアーヌside1


リリアーヌは幼い頃から体が弱かった。

熱も出るし、咳も出るし、夜は眠れないくらい苦しい。


リリアーヌはこんなにも苦しんでいるのに、歳が一つ違うコレットは元気に外を走り回り、友達と遊んだりする。

何故、自分だけこんな思いをしなければならないのか。

何故、自分だけこんな風に苦しまなければならないのか。

不自由なこの状況は苛立ちに繋がった。

憎しみや悔しさだけは積み重なっていく。

幼い頃はコレットがリリアーヌを本気で心配して案じてくれた。


『リリアーヌが早く元気になりますように!』


毎日、コレットがそばにいてくれるだけでリリアーヌはよかったし、庭で花を摘んでリリアーヌの元に届けてくれた時は嬉しくて、ずっと見ていた。

コレットの笑顔が太陽のように輝いていた。

でもコレットの関心が少しでも外に向くのが許せない。


「丈夫に産んであげられなくてごめんね」

「リリアーヌ、大丈夫か?」


両親はリリアーヌを心配していつもこう言った。

リリアーヌは両親にこう言ってしまう。


「コレットお姉様が羨ましい」


そう言って涙すると次の日、両親はコレットに少しだけキツく当たるようになった。


「わたしだけどうして?コレットお姉様のようになりたい」


そう言いながら咳き込むとその日から、両親はコレットに冷たくなった。

リリアーヌはいつの間にか両親を独占していた。

罪悪感からなのか、リリアーヌが可哀想だからか、リリアーヌの願いはすべて叶ってしまう。


「困ったことはなんでも言いなさい」

「リリアーヌ、わたくしたちがそばにいるからね」


そんな時、リリアーヌを羨ましそうに見ているコレットに気がついた。


(あれ……?これって)


三人を観察していたリリアーヌは、両親の視線がこちらに向くほどにコレットの表情は暗くなり悲しみが滲む。


(コレットお姉様は、わたしが羨ましいんだわ!)


そう思った瞬間、ゾワリと鳥肌がたった。

リリアーヌはコレットに勝ったことが嬉しかったのだ。

無意識に唇が弧を描く。

なんでも持っているコレットよりも上回るものをリリアーヌが持っている。

コレットよりも美しい容姿も、病弱な体も、すべてリリアーヌの武器になると気づいた。


(これは仕方ないのよ。だってコレットお姉様はなんだって持っているじゃない。だから苦しんでいいの……!)


リリアーヌはコレットを苦しめることに幸せを感じるようになった。

なんでも持っているコレットから自由を奪い取り、なんでもできるコレットから楽しみを奪い取り、苦しめることでしか得られない快感がある。


両親や侍女を味方につけて、執事も庭師も侍従も全部全部、リリアーヌの言いなりになっていく。


(ああ……なんて気持ちがいいのかしら!)


そうするとリリアーヌはコレットに勝つことができる。

弱いことは武器だと知った。

コレットは反抗することなく、地に落ちていく。

ただ耐えるしかない。

以前、よく笑っていたコレットは無表情で暗くなっていく。

そうすることでリリアーヌは元気になれる。


リリアーヌが八歳くらいの頃だろうか。

体が大きくなるにつれて苦しくなくなり、病が治っているのだと思った。

病が治れば、この方法は使えなくなってしまう。

そう考えた瞬間、リリアーヌは恐怖に襲われた。


リリアーヌはずっと弱くなければならないのだ。


医者や両親の前で嘘をついた。

その間、コレットは講師達に厳しいレッスンを受けていたが、リリアーヌは絶対にしたくない。


そんな中、コレットが紹介したい令息がいると部屋に飛び込んできたことがあった。


(コレットお姉様だけ幸せになるなんて許されるわけないでしょう?)


リリアーヌが目に涙を溜めるだけで問題は解決する。

コレットを一蹴して平手打ちをした父を見て拍手を送りたくなった。


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