第19話
(年はわたくしよりも上かしら……お父様たちの知り合い、というわけでもなさそう。珍しい髪色と瞳の色だったわ)
ホワイトアッシュの髪とアメジストのような神秘的な瞳、助けてくれた先ほどまでそばにいてくれた青年のことが頭から離れない。
『今は何も考えずにゆっくり休んでください』
そう言われたものの、今後のことを考えずにはいられなかった。
──ぐうぅ
考え込んでいたコレットは自身の大きなお腹の音に頬を赤く染めた。
意識がそこに集中すると急にお腹が空いてくる。
コレットは先ほどメイメイが置いていったトレイの中を覗き込む。
食べやすく一口サイズに切られたフルーツの盛り合わせと、縁が赤いお皿にはリゾットのようなものが入っている。
(……美味しそう)
紅茶のカップを置いてコレットはベッドの上を移動してからサイドテーブルへ体を寄せる。
温かいリゾットは食べやすいように冷ましてあるようだ。
手を伸ばしてスプーンを持ってから、くるりとリゾットを掻き回す。
白くとろみのある液体をスプーンですくって口に運んだ。
じんわりと広がるミルクの味と鼻から抜けるスパイスの香り。
(とても優しい味がする。美味しい……)
ホッとする安心感と共にリゾットの美味しさが身に沁みる。
三口ほど口に運んでから手を止める。
カチャカチャと何度も食器が擦れる音が耳に届いた。
コレットのスプーンを持っていた手は大きく震えていた。
これ以上、音を立てる前にとトレイにスプーンを置いてから鼻を啜る。
肩が小刻みに揺れて目からは涙がポロポロと溢れてくる。
声を殺すように唇を噛むがどうしても音が漏れ出てしまう。
涙と共に感情が溢れて止まらなくなった。
「ふっ……うぅっ」
コレットは静かに泣いていた。
お腹はまだまだ満たされないけれど、あの場所から離れることができたおかげでコレットの悲しみが少しだけ癒えたような気がした。
迷惑をかけてはいけないと気持ちを落ちつかせてから今度はフォークを手に取り、フルーツを刺して口元に運ぶ。
優しい甘味が口内に広がっていく。
コレットはゆっくりとゆっくりと食事をしていた。
砂を食べているようなミリアクト伯爵家での食事が嘘のように味を感じる。
「……ごちそうさまでした」
コレットは空っぽになったお皿を眺めていた。
涙はずっと止まらないし、鼻水もすごいので今はひどい顔をしているだろう。
けれど久しぶりに穏やかな時間に心が満たされていた。
そして窓から見える青空を見ていた。
包み込むような陽の光と、胃に優しい食事はコレットの体を温めてくれる。
今は寒さも苦痛も感じない。
コレットは静かに瞼を閉じた。
見えない鎖から解放されたようにスッキリとした感覚に深呼吸を繰り返す。
(わたくしに、まだこんな感情が残っていたなんてびっくりね)
こんな風に感情を外に出せたのはいつぶりだろうか。
コレットは壁に寄りかかるようにして景色を見ていたが、そのまま眠りについてしまったようだ。
だから扉をノックする音に気づくことはなかった。
そっと開く扉には先ほど出て行ったメイメイと青年の姿があった。
青年は壁にもたれるようにして眠っているコレットの方に向かうと背に手を回して抱えてから、そっとベッドへと下ろす。
そして親指でコレットの頬に流れていた涙を拭った。
「メイメイ……彼女をここまで追い詰めたのは誰だ?」
「今、ウロたちが調べております」
「なるべく早く調べろ。できるだけ情報を集め、人員を増やせ。内情が分かり次第、すぐに僕に報告しろ」
「はい、すぐに手配いたします」
「コレットをここまで追い詰めて苦しめた奴らを許すわけにはいかない……絶対にだ」
「かしこまりました」
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