第13話
「この恩知らずがっ、お前など除籍だ!今すぐに手続きをしてやる」
「出て行くなら勝手にしなさいっ!戻ってこれるなんておもわないことね!」
「その辺で野垂れ死ねばいいっ」
「ミリアクト伯爵家の恥晒しよ!二度と顔を見せないでちょうだい」
壁や扉に阻まれていても、二人の金切り声はよく聞こえた。
コレットはその声を鼻で笑いながら自分の部屋へと足早に向かった。
(除籍……願ってもない処遇よ)
コレットの心にあったわずかな希望は砕け散り、家族としての情も髪と一緒に切り捨ててしまった。
また物置部屋に閉じ込められては困るからと、コレットは部屋の扉を閉じて近くにあった家具を置いて扉が開くのを防ぐ。
コレットの予想通り、先ほどの暴言だけでは気が済まなかったのかドタドタと荒い足音がこちらに近づいてくる。
しかし家具に扉が阻まれて開かないことで更に逆上しているようだ。
(急いでこの家から出ていかないと……!)
テーブルの引き出しを隠し持っていた鍵で開けてからコレットはランプに灯り灯すのに使っているマッチに火をつけた。
アレクシアとエルザからもらった手紙をすべて燃やすためだ。
コレットが出て行き、手紙が見つかることで二人に被害が及ぶことだけは避けたかった。
焦げ臭い匂いがしたことで両親は怒ることも忘れて、焦っているようだ。
コレットが邸に火をつけようとしていると思ったのだろうか。
しかし、いくら憎くてもミリアクト邸を燃やすつもりはなかった。
そうしたい気持ちもあるが、そこまでしたら自分を好きでいられなくなってしまいそうだったからだ。
(早くっ、必要なものだけ持っていきましょう……!)
少しのお金と護身用のナイフをカバンに詰め込んで、ストールを肩にかけてからコレットは窓を開けた。
部屋には強い風が吹き込んでくる。
手紙を燃やしていた火も弱まって、今にも消えてしまいそうだ。
灰になった手紙を確認してから窓に足を掛けた時だった。
まるでコレットを引き止めるように部屋に吹き込む風に、今まで我慢していた涙が込み上げてくる。
鼻の奥がツンと熱くなり、コレットは涙が溢れ出てこないように瞼を閉じた。
コレットの部屋の扉は無理矢理こじ開けようとしているのか今にも壊れそうだ。
もう一人の自分がいつものように心の中で問いかけたような気がした。
『本当にこれでいいの?』
ここにいれば辛い目にあったとしても食べることに困ることはないし、温かい布団で眠ることができる。
いつかはリリアーヌの体調がよくなり、どこかに嫁げば解放されるかもしれない。
もしかしたらコレットが心の奥底で望んでいた両親の愛情が手に入るかもしれない。
そんな希望に縋って、コレットはこの場にとどまり続けた。
だけど、そんな日は絶対に訪れない。
(行くのよ……!もうここにわたくしの居場所はないわ)
大きく息を吸って、ゆっくりと吐き出した。
まるでコレットの意思を尊重するように風がピタリと止んだ。
(さようなら、今まで我慢ばかりしていたわたくし)
コレットは窓から身を乗り出して外に出た。
コレットは荷物を持ってストールで顔を見えないようにしながら走っていく。
除籍すると言っていたし、追いかけてくるとは思っていない。
とにかくあの家から遠く遠く離れた場所へと行きたかった。
コレットは父の代わりに領地の視察に赴き、よく領民たちと話していた。
領民たちは優しく、懸命に働くコレットを応援して協力してくれていた。
そんな思い出が頭を過ぎる。
町の中をぐんぐん進んでコレットだとバレないように早足で進んでいく。
見慣れない荷馬車を見つけて途中まで乗せてもらうことに成功した。
ここから離れられるのなら行き先はどこだってよかった。
領地を離れて行くたびに、恐怖と喜びとが混ざりあうような複雑な心境だった。
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