第11話


コレットがディオンに視線を送ると、彼はコレットを馬鹿にするように微笑んでいる。

どうやらコレットの味方をするつもりは毛頭ないらしい。



「お父様がコレットお姉様は領地の仕事もしないから、もうダメだろうですって。だから代わりにわたしがミリアクト伯爵家をディオン様と支えていくわ!」


「…………」



今日、コレットは病弱と嘘をついている妹に何もかもを奪われた。



「ずっと病気で何もできなかったわたしに、婚約者をちょうだい?これくらいいいでしょう?」



これくらいいいでしょう?

その言葉はコレットの心を大きく抉った。



「……リリアーヌ、本気で言ってるの?」


「えぇ、だって仕方ないじゃない。コレットお姉様が悪いのよ?」


「すまないな、コレット。俺はリリアーヌと結婚する」


「……ッ!」


「病がよくなったリリアーヌに嫉妬して、陰で虐げていたなんて。許されることではないだろう?」



妹、リリアーヌの桃色の唇が綺麗に弧を描いている。


リリアーヌとコレットは一歳差の姉妹だ。

プラチナブロンドの髪が嫌味なほどにサラリと揺れた。

婚約者のディオンは、いつもの胡散臭い笑顔が嘘のように眉を吊り上げてコレットを睨みつけている。



「ミリアクト伯爵にはもう話はしてある。すぐに手続きをしてくれるそうだ。お前には失望したよ、コレット」


「ディオン様……コレットお姉様を責めないでくださいませ。きっと何か理由があってこんなことをしたと思うの。それにわたしはコレットお姉様がダメな人でも、ずっと一緒にいてあげたいと思っているのよ?」


「……!」


「これからもここにいて、わたしたちを支えていいから。ね?」



その言葉にゾッとして全身に鳥肌が立った。

リリアーヌとずっと一緒にいるなんて死んでもごめんだ。

そう心が叫んでいた。



「リリアーヌは優しいんだな」


「…………」


「ありがとうございます。ディオン様」



「それに比べてコレットは……」



当然のようにリリアーヌとコレットが比べられて、コレットが悪いと責められるのはいつものことだ。


(それに比べてコレットは……?あなたにだけは言われたくない。もう、この男と一緒にいるのはうんざりだわ)


コレットは怒りと悔しさから手のひらをグッと握る。



「コレットお姉様は〝可哀想〟な人だから、わたしもお姉様を許すわ」


「リリアーヌの優しさに感謝したほうがいい。それから己の身のふり方に気をつけるように。伯爵家を継げないお前に口を出す権限はないんだよ」



その言葉を聞いた瞬間、コレットの中で何かが壊れた。



「…………いらないわ」


「え……?」


「もう何もいらないと言ったのよ」


「……ッ!?」



コレットはリリアーヌにそう言ってから二人に背を向けて部屋から出るために歩いていく。



「なっ、何を言ってるの!?今回のことは、わたしからお父様たちに言って許してあげるって言っているじゃないっ」


「おい、コレット……!」


「コレットお姉様を止めてっ!」



リリアーヌはベッドから足を下ろして侍女に向かって叫ぶ。

二人の侍女はコレットを引き止めるように扉の前に立つ。



「……そこを退きなさい」


「で、でも……」


「リリアーヌお嬢様がっ」



いつもと違うコレットの迫力ある様子に侍女たちはたじろいでいるようだ。

リリアーヌと侍女たちが騒ぐ声が聞こえたのだろう。

両親がリリアーヌの部屋の扉の前で声を掛ける。



「リリアーヌ、どうしたんだ!?」


「何があったの?扉を開けてちょうだいっ」



その言葉を聞いたリリアーヌはチャンスとばかりに目から涙を溢しながら口を開いた。



「コレットお姉様がっ、わたしのお願いを聞いてくれないのぉ!わたしはディオン様やミリアクト伯爵家のことも考えて動いているのに……!」

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